脳と発達
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右側頭・後頭葉に限局せる新生児硬膜下血腫の1例
日下 和昌曽我部 紘一郎松本 圭蔵
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1977 年 9 巻 4 号 p. 337-343

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抄録

おれおれの調査した文献では, 一側側頭後頭葉に限局した新生児硬膜下血腫の例はほとんどみられなかった.生後20日の新生児 (女) が大泉門の膨隆と意識障害を主訴として1974年5月2日来院した.患者の発症は生後5日目の痙攣発作を初発症状としている.脳血管撮影を行なったところ, 右側頭・後頭部に無血管野を認めた.右中大脳動脈は前上方に偏位していたが, 前大脳動脈の偏位はみられなかった.入院当日直ちに開頭術を行ない, 混合型硬膜下血腫30m1を除去した.術後患者の意識は清明となり, 大泉門の膨隆も消失した.術後の血管写では無血管野は消失していた.しかしながら前大脳動脈は明らかに右方に偏位していた.気脳写では両側の著明な脳室拡大を認めた.その後患者は運動が不活発になり, 冠状縫合も閉鎖し, 小頭症的状態となった.そこで1974年7月14日冠状縫合にそって線状頭蓋開溝術を加えた.その後頭囲も正常に発育し, 運動も活発になった.生後1年6ヵ月の現在患者はまず経過良く発育している.この症例のようになぜ特別な場所に限局性血腫ができたのか, その発生病理を示すような臨床的証拠や手術所見はみられなかった.血腫の原因は不明である。しかし患者が小さな血管奇形をその部に有しており, それが分娩中に破裂してこのような血腫が生じたのかも知れない.血腫除去後に生じた著明な脳室拡大を伴なった水頭症的状態は脳の先天性奇形を同時に伴っていたのかも知れない.

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© 日本小児小児神経学会
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