2024 年 28 巻 3 号 p. 123-132
通言語的に見て一般に有標な声調のみが拡張できるとされるが,トラパネク語ウェウェテペク方言では低中高三つの平声調はすべて拡張することができる。そのうち,低声調はゼロ声調を持つ声調実現単位にしか拡張できない上,低声調のみがその他の声調の拡張を受け入れることができるという意味で,最も無標な声調である。しかし,その他の声調有標性の基準,すなわちデフォルト性と浮遊可能性の判定基準からは,中声調が最も無標である。この意味で,有標性パラドクスが生じる。本稿では,こうした現象を記述することで声調有標性の考え方に一石を投じる。