2017 年 4 巻 p. 21-32
本稿は,長野県の自然保育ポータルサイトで紹介される実践例において,子どもの内面に関する保育者の記述の特徴とその傾向を分析し,自然保育の質向上にむけた幼児理解の課題と可能性を考察するものである。平成10年以降の幼稚園教育要領において,自然環境は保育内容の5領域すべてに関わるものとして重要となっている。そこでは,自然と触れ合うことは,幼児にとって楽しさや感動などが涵養されるポジティブな経験となることが想定されていた。それに対しポータルサイトにおける保育者の記述は,幼稚園教育要領に沿って楽しさや嬉しさに焦点をあてつつも,不思議さや怖さなど幼児の複雑な内面を捉えていることが明らかとなった。これは幼児理解における多様な視座の重要性を指摘する先行研究に対し,自然保育に関わる保育者の視座の多様性は概ね確保され,それが幼児の豊かな心情を涵養する点での自然保育の質向上につながる可能性がある一方,少数の事例における楽しさや嬉しさに限定された視座では,幼児理解の深化を阻害してしまうことを示した。