2015 年 58 巻 2 号 p. 84-90
人工内耳手術にあたっては, 高齢の症例や全身合併症に注意を必要とするケースが増えている。 慢性腎不全で人工透析を必要とする場合の人工内耳治療について報告した。 症例は血液透析が導入されていて, 東京医科大学病院耳鼻咽喉科で人工内耳植込み術を施行した5例, 手術時年齢は30~57歳, 男性4例, 女性1例である。 失聴期間は1~45年と, きわめて長い傾向があった。 手術後の追跡期間は5年5ヵ月~14年2ヵ月で, 3例は終生人工内耳の装用を続け, 2例はなお通院中である。 いずれの症例でも人工内耳植込み術前後には血液透析を行いながら管理したが, 特別な問題はなく, 手術を行った。 失聴期間が長く, 術後の聴取は視覚併用のケースが多かったが, 術後のリハビリテーションではトータルコミュニケーションの一部として人工内耳が活用されていたことが確認できた。 これらのうち1例では, 人工内耳装用開始後に腎移植を受けている。 人工内耳装用開始後に腎移植を受けた例は渉猟しうる限り1例のみで, 稀な例と考えた。