1991 年 34 巻 1 号 p. 87-93
突然, 激しい眩量と右聴力障害を呈した55歳男性例である。純音聴力検査では, 右耳はscaleoutの状態であった。神経学的には, 軽度ふらつきが認められたのみであった。頭部単純レ線, CTでは特に異常を認めなかった。ABR検査では右耳の1波の消失が認められたが, 他の波は異常はみられなかった。最終的には, air-CTcisternography, MRIにて内耳道内聴神経腫瘍と診断された。しかしながら, ステロイド療法 (デキサメサゾン3mg/day) 10日間施行後には, 聴力は正常域まで回復した。
我々の調べ得た限りでは, このように聾から正常域まで回復した報告は, これまでに見出し得なかった。こうした現象の機序は不明である。しかしながら, 内耳道内の小腫瘍が一過性に第VIII神経, 前下小脳動脈を圧排し, その後ステロイド投与によって腫瘍容積が減少したか, 或いは, 腫瘍の進展方向が変化した事によって圧迫が解除されたためと推定した。突発難聴例を診察する際には充分な神経放射線学的検索 (air-CTcisternography, MRI) が必要である。