1991 年 34 巻 Supplement5 号 p. 383-396
動揺病発症により種々血中ホルモン濃度が変化することが知られ, このホルモン動態が動揺病の易罹患性 (susceptibility) に関与すると考えられている。
本研究では, 健康成人ボランティアに対し, 実際に回転負荷装置を用いコリオリ加速度負荷を加え動揺病を誘発し, その時の血中ホルモン濃度の変動を測定した。また被験者の動揺病誘発時の症状をGraybielのDiagnostic scoreに従い点数化し, その点数から酔いやすい群, High susceptibilityと酔いにくい群, Low susceptibilityに分類し, それぞれについて血中ホルモン濃度の変動を比較した。
動揺病誘発により, High susceptibilityの群ではADH, ACTH, プロラクチン, コルチゾル, アドレナリンの血中濃度が有意に上昇した。上昇の程度はADHにおいて最も顕著であった。Low susceptibilityの群では, 動揺病誘発によるホルモンの血中濃度の変動をほとんど認めなかった。
これらの結果から, High susceptibilityの群では, 動揺病誘発による血中ホルモン濃度の変動が有意に大きかったが, これが単に動揺病発症によるストレスへの, 生体の視床下部一下垂体-副腎を中心とした内分泌系の反応によるものか, それとも直接個々のsusceptibilityをあらわすものかどうかははっきりしなかった。
また, 血中ホルモン濃度の変動はADHにおいて最も顕著であり, ADHの中枢での作用機序等から, 動揺病の発症にADHが関与する可能性が推測された。