1995 年 38 巻 5 号 p. 609-612
中耳真珠腫の病変の特徴の一つは単純性慢性中耳炎と比較して骨破壊が高度のことである。真珠腫の骨破壊機序については, 従来より圧迫による骨破壊壊死, 炎症性肉芽から産生される2内因性物質による骨吸収促進作用等が報告されている。しかし, 形態学的に内因性物質がどの様な経路により骨に作用するかについての報告は少ない。今回, われわれは上鼓室型中耳真珠腫の骨破壊像について病理組織学的に観察したところ, 骨破壊が真珠腫マトリックスに接している骨に一様に起こるのではなく真珠腫マトリックスの断裂部に特異的に存在する所見を得た。また断裂部にはリンパ球などの炎症細胞の浸潤も存在した。これらの所見から真珠腫による骨破壊は主として真珠腫マトリックスの断裂部より放出された内因性物質により, 種々の細胞が誘導され, 生じるものと推察された。