1996 年 39 巻 Supplement1 号 p. 16-19
細菌バイオフィルムは, 慢性下気道疾患の難治化に深く関わっていることが報告されてきているが, この特徴として細菌の局所での生息圏の維持が形成要因と考えられており, 臨床症状が急性増悪を繰り返し慢性に経過することや, 換気の不十分な場合に認められること, マクロライド系抗菌剤がその治療に有効であることが知られている。これらは, 細菌バイオフィルムが, 上気道病変の一つである慢性副鼻腔炎にも存在する可能性を示唆するものである。今回, 慢性副鼻腔炎患者の病的副鼻腔粘膜を走査電顕を用いて観察したところ, グライコカリクスを産生している所見は多く認められたが, 報告されている典型的なバイオフィルムの所見は認められなかった。グライコカリクス産生は, バイオフィルム形成の初期あるいは軽度の段階であるとも考えられており, 今回の結果から, 症例によっては慢性副鼻腔炎にもバイオフィルムが形成される可能性のあることが示唆された。