蝸牛におけるラセン靱帯の線維細胞 (fibrocyte) は単なる結合組織を構築する細胞ではなく, カリウムイオンリサイクル機構, 炎症反応, グルタミン酸代謝機構等において極めて重要な役割を演じていることが, 近年の研究成果により明らかにされている。また, 種々の内耳病態およびその治療を考える上でも線維細胞は極めて重要な鍵を提供するものと考えられ, 内耳の研究は, まさに「線維細胞の時代」に入ったと言っても過言ではない。本稿においては, ラセン靱帯線維細胞の多彩な機能について詳細に解説し, さらに今後の展望等についても述べる。