2018 年 28 巻 5 号 p. 702-707
人工内耳埋込術後に起こり得る創部皮弁のトラブルでは、異物の存在ゆえに感染の制御に難渋することが多い。やむなく一旦インプラントを摘出して創部の治癒を待つ場合もある。本症例では人工内耳埋込術後2週間で創部の膿瘍形成、離開を来した。これに対して消炎後、インプラントを温存したまま浅側頭動脈由来の有茎筋膜弁を用いて一期的に閉鎖をし得た。側頭・頭頂筋膜弁(temporoparietal fascia flap、以後TPFFと略する)は側頭・頭頂領域を広く栄養する浅側頭動脈を利用した皮弁であり、その豊富な血管網ゆえ生着の信頼性は高く、形成外科領域では頭部・顔面の再建手術でしばしば利用される。本症例での経験から、耳鼻咽喉科領域手術での利用、とくに術野に人工物が存在する場合での有用性について再認識した。