Otology Japan
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ネクストジェネレーションセッション4
前上鼓室解剖のバリエーションとTEESによる弛緩部型真珠腫手術
水足 邦雄
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2021 年 31 巻 2 号 p. 155-160

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抄録

真珠腫の手術では確実な母膜摘出とともに術後の中耳換気能を確保する必要がある.TEESでは外耳道を中耳へのアクセスルートとして直接利用し,より近接できるため耳後部アプローチによる顕微鏡の視野では最深部となる耳管上陥凹を含む鼓室前方の換気ルートを,正面から観察し処置することが可能な術式である.そのため上鼓室,特に耳管上陥凹から前上鼓室にかけての,上鼓室前骨板(cog)や鼓膜張筋ヒダの解剖は,TEESが導入されてから改めて「見直された」解剖構造であると言える.

そこで我々は上鼓室真珠腫に対してTEESを施行した74症例を見返し,cogおよびtensor foldの位置関係を3つに分類して,それぞれのタイプ毎の術後前方換気ルートの開存率,術後再発率,術後聴力についてそれぞれ検討した.その結果,鼓膜張筋ヒダが垂直に位置するType A(vertical type)が14例(18.9%),斜めに位置するType B(oblique type)が29例(39.2%),水平に位置するType C(horizontal type)が29例(39.2%)であった.

手術では全例で明視下にcogおよび鼓膜張筋ヒダを開放したが,手術の1年以上経過した後にも60耳(81.1%)で鼓室前方換気ルートの開存がCTにて観察された.真珠腫再発率は3例(4.9%)で,聴力改善率は気骨導差20 dB以内の症例が75.6%であった.これらの結果は,鼓膜張筋ヒダの解剖バリエーションによる差は認められなかった.

これはTEESを通し前上鼓室の解剖に習熟したことにより,どのようなバリエーションであっても確実に明視化で前方喚起ルートが開放できるようになった結果であると考えられた.「よく見える」TEESの特性を活かしながら詳細な中耳解剖を「自ら見に行く」ことで真珠腫に対する安全で機能的な手術が可能となることを強調したい.

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