2021 年 31 巻 4 号 p. 497-502
外傷性耳小骨連鎖離断はしばしば遭遇する疾患であるが,キヌタ骨が鼓室外にまで転位することはほとんどない.今回,我々はキヌタ骨が欠けることなく完全な形で外耳道皮下に脱出した頭部外傷による外傷性耳小骨連鎖離断の1例を経験した.症例は51歳の男性,頭部外傷で当院救急科に搬送され,翌日に外耳出血が続くために当科に紹介受診された.側頭骨CTで耳小骨連鎖離断が判明し,頭部外傷の治療が終了後の受傷約6か月後に手術を施行した.手術では,外耳道骨膜下にキヌタ骨が完全な形で存在するのを確認後,キヌタ骨を摘出し耳小骨連鎖をIIIi-Mで再建した.本症例では,術直前に3D-CT撮影を行い,変位したツチ骨と鼓膜,中耳の関係を詳細に把握することで円滑に手術を遂行することが可能であった.