Otology Japan
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細胞科学における光測定の展開
近接場光、光ピンセットを用いた細胞の力応答の研究の紹介
辰巳 仁史早川 公英曽我部 正博
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2008 年 18 巻 1 号 p. 60-65

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抄録

私たちは音を聞いたり、重力の向きを感じたりすることができる。音は鼓膜を揺すりその結果、内耳の有毛細胞にある感覚毛が動毛の方向に倒れると何らかの機構でイオンチャネルが開いて、有毛細胞の膜が脱分極し、さらに神経伝達によって、信号が中枢神経系に伝わると考えられている。これらの機能を実現するのにイオンチャネルは不可欠である。
われわれが普通の生活で聴く音圧の音刺激を内耳の有毛細胞が受容する場合、細胞は極めて小さい力を感じる必要がある。音刺激が内耳に伝わると、感覚毛がたわみ二本の感覚毛の問にずれが生じて、その結果イオンチャネルが開くと考えられている。図1に音の受容のモデルを示す。二つの感覚毛はチップリンクと呼ばれるひも状の構造で結ばれている(その分子組成は最近明らかになった (Siemens, et al., 2004; Kazmierczak, et al., 2007))。このモデルではひも状の構造はチャネルの力感受部位に接続されている。またチャネル自身は細胞内骨格につながっている。細胞骨格はチャネルの移動を制限していて、チャネルに力が掛かったときにチャネルが膜上を移動しないようにしている。膜の上をチャネルが自由に移動できないので、力はチャネルに作用し、チャネルが開く。すなわち感覚毛がたわむと二つの感覚毛の問の距離が離れて、チップリンクを介して力がチャネルに伝わりチャネルが開くと考えられている。しかし、このモデルは仮説の段階で状況証拠があるのみである (Gillespie and Walker, 2001)。このように機械的な力によって開閉が制御されているチャネルを機械受容 (SA) チャネルと呼ぶ (Blount, et al, 2008)。
機械受容チャネルの開閉の制御機構についてはこれまで二つの仮説が知られている。一つはチャネルは細胞内骨格あるいは細胞外のマトリクスにつながっていて、これらの構造変化(歪み)がチャネルに伝わってチャネルが開くとするもの (図1a、bの有毛細胞のモデル)。他の説は、チャネルは細胞膜に発生する張力によって開くとするものである (図1cの大腸菌のチャネルのモデル)。大腸菌のチャネルの場合、チャネル蛋白質を精製して人工的に作られた膜にチャネルを再構成できる。そして、人工膜に張力を発生させるとチャネルが開くことが実験で確認されている (Sukharev, et al., 1999)。しかし、最初にのべてた細胞骨格を介してチャネルが活性化されるとする仮説については、真核生物の細胞における機械受容の仕組みとして想定されてきたが、実験的な証明はなされていない (Gillespie and Walker, 2001)。
われわれは最近、近接場光や光ピンセット法やパッチクランプ法などの研究方法を用いて細胞骨格によるチャネルの活性化を強く示す実験データを得ることができた (Hayakawa, et al., 2008)。その概要を報告する。

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