2021 年 90 巻 9 号 p. 555-559
前庭電気刺激は,経皮電極を介した弱電流によって平衡感覚に錯覚をもたらす.この刺激は意識上に加速度の知覚をもたらすとともに意識下で各種の身体応答を生じさせる.この効果によって,バーチャルリアリティやゲーム体験における自己運動感のリアリティの向上だけでなく,意識下での歩行や姿勢の誘導インタフェースとしての利用や,感覚誘発性の酔いの研究にも活用することが可能である.本稿では,これらの事例を紹介するとともに,意識下の身体応答と意識上の知覚認識の対応関係が,随意運動としての運動主体感の解釈を左右するという現象とその応用について触れていくことにする.