応用物理
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フォトン・エコー
竹内 延夫
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1976 年 45 巻 8 号 p. 803-807

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抄録

フォトン・エコーのくわしい取り扱いについては文献3),8)や,解説1), 6), 7), 9)や単行本10), 11)を参照していただくことにして,ここではエコー生成の原理について簡単に触れる.
フォトン・エコーの形成については, 2準位系原子の状態を幾何学的ベクトル12)で表わし,スピン・エコーと同様のベクトル模型で, 90°~180°パルスによる励起を考えるのがもっとも理解しやすい.平衡状態で-z方向を向いていた擬双極子は,回転系でy方向に加えられた90°パルスによってx軸方向に励起されて巨視的分極をつくり, superradiant状態となる.この巨視的分極は不均一な緩和時間T2∗のうちに, x-y平面内に拡がってしまい,ベクトルの平均としては0となる(この際,放出される光が自由誘導減衰であるが,励起光が矩形波でないと区別はむずかしい).第1パルスの後τsの時間に180°パルスをかけて,個々の分極を時間反転させると,さらにτs経過後にふたたび個々の分極の位相が揃って巨視的分極を形成し, superradiant状態を再現して光を放出する.これがフォトン・エコーである.ベクトル模型でなく,波動関数を用いても容易に説明できる11).一般的には密度行列を用いて取扱われる.
フォトン・エコーを観測するには,均一な緩和時間T1(縦緩和), T2'(横緩和)と不均一な横緩和時間T2∗およびパルス幅τpの間に, T2∗, τpT1, T2'の関係があることが必要である.通常は, T1, T2'を無視して, τpT2∗(パルス幅がδ-関数的)の場合が,解が解析的に求められるので取り扱われる3). κ方向のエコー強度は,
Iisin;(κ)=(N2/4)I0(κ)(λ2/∈A)sin2θ1sin42/2)
で与えられる. I0(κ)はκ方向へ放出される自然放出の強度, λは波長, Aは照射面積, ∈は試料の誘電率である.パルス面積θi(i=1,2)は遷移の双極子モーメントをμとするとき, (1/_??_)∫μEidtで与えられる.エコーの強度はθ1=π/2, θ2=πのとき,最大となることがわかる. T2∗<τpのときは解析解は得られず,また同じパルス面積θiに対してもEiとτpiの選び方によってエコーの結果は異なり,エコーの形,エコーの幅(~τpi)ピーク位置,強度などが変わってくる13).しかし,τp_??_T2∗いずれの場合でも,また励起光が単一波長でなくても, cross relaxationが存在しないときには,エコー強度は,パルス間隔τsとともに指数関数的にexp(-4τs/T2')で減少する.したがって, τsをかえてエコー強度を測定すると,励起条件とは無関係に,その強度の減少の割合から均一な横緩和時間T2'が求まる.
フォトン・エコーの偏光方向は縮退のない2準位間では,第2パルスの偏光方向を第1パルスの偏光方向を基準にして測ってφとするとき, 2φで与えられる3).いっぽう,気体試料のように準位に縮退があるときには,もはやベクトル模型は使えず,密度行列による取り扱いを忠実に行なって,偏光の方向が求められる8).ルビーの遷移では, m=±1/2_??_m'_??_1/2なので, 2つの独立な組み合わせとして,縮退のない場合と等しくなる. Herrらは縮退のある場合について直線偏光以外の入射励起光によるエコーの偏光を計算した14).
フォトン・エコーの伝播方向κは準位の縮退に関係なく, 2κ21で与えられる.したがってκ1≠κ2のときにはκ(=2κ21)だけを通す絞りを検出器の前において透過励起光を減少させることができる3).

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