リン脂質膜では,構造的・物性的に多くの特異な現象が見られる.ここではまず,リン脂質二重層膜の相転移に伴って現れる構造のいくつかについて, X線回折実験に基づいて検討する.膜構造,特にメゾスコピックな構造であるリッブル構造の研究においては, X線回折以外に電子顕微鏡観察や磁気共鳴などの笑験データをも考慮した多角的な解析が必要であることを示す.リン脂質膜の物性については,相転移における緩和現象や,出現する相の多様性について論ずる.また,リン脂質膜とモデルタンパク質の相互作用についても論ずる.この解説を通して,なお未解決な問題が多く残されていることを指摘したい.