1999 年 68 巻 5 号 p. 556-560
近接場光の生物への研究の応用として,今回はエバネッセント照明による1分子イメージング,光ピンセットを使った1分子マニピュレーション・ナノメトリーを組み込んだ測定システムを紹介する.この測定システムを利用することにより,生体分子モーターであるミオシン分子1分子の化学反応と力学反応を同時に計測することが可能となった.この計測において, ATP (アデノシン三りン酸)の加水分解反応がどのように力学反応に対応しているかを検討し,その結果力発生は常にATPの分解産物であるADP (アデノシンニリン酸)の解離と対応しているわけではなく,数百ms遅れてカを発生している場合も見られた.この結果は,今までの定説である, ADPの解離とダイレクトにカップルして力が発生する,というモデルと一致しない.今回の結果は,ミオシン分子はATPの加水分解によって得られた化学エネルギーを分子内に蓄えておける機構が存在することを示唆している.