シリコン表面プロセスにおいて現れる水素の複雑な挙動とその起源について,最近の研究を紹介しながら概観する.水素による未結合手(ダングリングボンド)の終端は,「表面エネルギーの低下とそれに伴う反応性の減少」,および「表面付近のボンドの硬化とそれに伴う表面原子の動きやすさ (Mobility) の減少」を引き起こす.これに対し,水素吸着表面への原子状水素の照射は表面の共有結合ボンドを切断するように働くことがある.この結果として,表面にダングリングボンドが生成され,「シリコン表面の表面エネルギーの上昇とそれに伴う反応性の増加」,および「表面付近のボンドの軟化とそれに伴う表面シリコン原子の動きやすさ (Mobility) の増加」などの現象が起こる.このように水素は条件によってまったく反対の効果をシリコン表面プロセスに与える.このことはシリコン表面プロセスに与える水素の効果を複雑で不可思議なものにしている.