抄録
今回,人工膝関節全置換術後に強い疼痛により,不活動に陥り日常生活活動(activities of daily living:以下,ADL)の拡大に難渋した破局的思考を有する60 歳代女性を担当した。術後早期は,リハビリテーション実施前の服薬と実施後のアイシングに加えて,疼痛の改善に有効であるcoping skillの獲得を目指すこととした。疼痛に対するcoping skill として用いる作業を検討するために興味関心チェックリストを用いて馴染みのある作業を日中行うことを提案したが,「痛くてやる気がないのでやりたくない」と発言を認め,疼痛の改善が得られなかった。そこで,認知行動療法の技法の一つであるマインドフルネスのボディスキャンを用いた介入を試みた。本法は,仰臥位で閉眼し深呼吸を行いながら,下肢・上肢・体幹・頭部の順番に身体について意識を向けていく方法である。術後10 日目に実施した際,疼痛はnumerical rating scale で実施前8 から実施後2 点と即時効果を認め,事例より「痛みから解放された感じがする」と発言があった。このことから,ボディスキャンを疼痛の対処法として作業療法に併用して実践した結果,離床時間やADL は拡大し,事例の目標である調理動作はカナダ作業遂行測定で遂行度は5 から10,満足度は6 から10 と改善が得られた。ボディスキャンは前外側前頭前野を賦活することにより,扁桃体の活動を抑制し,疼痛やそれに伴う負の情動を抑制することが報告されている。ボディスキャンは,物品を必要とせず,実施方法が簡便であることが利点であり,本事例のように術後早期の疼痛により活動意欲が低下し,不活動に陥った場合に有用となるアプローチの手段であると考えられた。