2021 年 74 巻 26 号 p. 109-120
本報告は,欧州特許庁の拡大審判部への付託事件G1/19〔ある環境下における自律的主体の動態のシミュレーション方法事件〕を手がかりとして,欧州特許条約の下でのコンピュータ利用発明の特許性の判断原理についての理解を深めることを目的とする。
2021年3月10日に拡大審判部の審決が出された。同審決は,発明がシミュレーションの前提となる原理に対してどのような技術的貢献をしているのかを探求することが重要であるとし,シミュレーションの前提となる原理が技術的なものであっても,技術的性質を有しないと判断される場合もあるし,逆に,その原理が非技術的なものであっても,技術的性質を有すると判断される場合もあるとして,様々な仮想事例について考察している。
新たな技術の出現によって技術の地平が拡張されると,特許による保護の充実が叫ばれるのが常である(最近では,人工知能の成果物の特許保護)が,このようなときに重要なのは,buzzwordなどに惑わされることなく,分をわきまえて,特許制度の基本に立ちかえることである。
この点,同審決の内容は,日本の実務に示唆を与えるものといえる。