生成AI技術の進展により、創作と享受の両面において著作権法には課題が生じている。創作の場面ではAI生成物の著作物性が議論の的となっている。AIによって生成された具体的表現に対して人間のコントロールが及んでいないことから著作物性を否定する見解が現在は有力である。しかし具体的表現はいくらでもAIが生成してくれる時代には、具体的表現への貢献ではなくむしろその作品に込められたメッセージを考案した貢献こそが重要視されるようになるだろう。このような創作環境の変化はアイディア・表現二分論の見直しにつながる可能性を秘めている。享受の場面ではAIを用いた改変的享受が同一性保持権との関係で問題となる。ファスト映画に代表されるように、「鑑賞から消費へ」の流れの中で様々な著作物が改変して享受される社会状況にある。AIによる編集を活用することで、利用者は自分に最適化された形で情報を得られるようになる。このような利用者側の情報受領の利益と、著作物をその意図通り享受してほしいと願う著作者の利益との対立が生じる。改変的享受の適法性については、ときめきメモリアル事件とTwitterリツイート事件の最高裁判決を踏まえて、誰が改変内容を決定しているのかに着目した規範的改変主体を認定しつつ、「やむを得ないと認められる改変」該当性判断における利益衡量の内実をさらに探究していくことが急務となっている。