湿原という用語は,研究者や分野によって様々に定義されている。筆者のように湿原と泥炭地とを強く結びつけない立場からは,その土壌環境は,泥炭である場合と,鉱質土壌である場合の双方があることになる。湿原の土壌環境は,特に気温によって変化し,冷涼地から温暖地にかけて泥炭・黒泥・鉱質土壌の順に変化する。鉱質土壌上に成立した湿原(鉱質土壌湿原)は,日本では主に暖温帯の丘陵地に広く分布し,絶滅危惧種や地域固有種を含む保全上重要な生態系を擁している。鉱質土壌湿原の理解と保全に際して留意すべきことは,泥炭湿原と成立や存続にかかわる機序が異なるため,泥炭湿原で得られた知見をそのまま当てはめることはできない点である。有機物の集積が進まないタイプの湿原はこれまで等閑視されてきた経緯があり,土壌をはじめとした広範な分野からの理解が進むことを期待したい。