Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Mini Review
Investigation of actual condition of implant treatment in Division of Periodontology, Meikai University Hospital
Hideharu OtsukaKitetsu Shin
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2017 Volume 59 Issue 1 Pages 10-18

Details

はじめに

骨接合型インプラントによる口腔機能回復治療は,その高い予知性から,欠損補綴の主要な選択肢となっている。インプラントは,歴史的には無歯顎患者の下顎歯列に用いられ,徐々に少数歯欠損患者に対しても応用されるようになったが,残存歯のある顎堤への応用により,インプラント周囲炎1)やインプラント周囲粘膜炎2,3)などの合併症が報告されるようになり,現在ではインプラント治療に対する長期安定性が社会的にも注目されている。Roccuzzoら4)は,重度歯周炎患者は歯周病学的に健康な患者と比較して骨吸収の程度が有意に高くなるとしている。また,DerksとTomasi5)によるシステマティックレビューでは,インプラントの機能年数とインプラント周囲炎の発症には正の相関関係が認められたと報告されている。

インプラント周囲疾患の罹患率に関するシステマティックレビュー6-8)では,研究方法や症例の違いなどから,成績を一律に比較することが困難であったものも少なくない。また,インプラントの予後に関する実態調査は少なく,その中でも歯周炎患者を対象にした調査は限られている。

明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科では,歯周炎患者に対してインプラント外科手術を行う際の全身状態,および歯周治療後の残存歯に対する評価の基準を明確にしており,施術にあたっての術式のプランニング,インプラントの種類,補綴装置およびメインテナンスまでを一括して管理している。術前の患者情報およびメインテナンス来院時の調査票から,2007年~2015年までに,5編の実態調査9-13)を報告している。このミニレビューはこれまでに発表された研究を総括し,考察するものである。

被験者の条件,および検査項目

これまでに報告してきた明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科での一連の研究9-13)での被験者の条件,および検査項目を以下に示す。

1. 被験者

被験者は,明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科に来院した慢性歯周炎患者のうち,歯周外科手術を含めた歯周治療が終了し,インプラント治療後の定期的なメインテナンスに応じたものとした。

2. 残存歯の歯周組織の状態

インプラントの埋入手術は,残存歯の歯周組織検査を行いその結果,治癒あるいは病状安定の状態にある患者を対象にプランニングを行った。インプラント治療の術者は臨床歴10年以上のインプラント治療経験の豊富な歯周病専門医とした。

3. インプラントの種類

一連の調査で用いられたインプラントシステムは,Zimmer Dental社(Carlsbad,CA,USA)製のScrew-VentおよびTapered Screw-Vent Implantとした。それぞれ最大直径3.7 mmのスタンダード(SVおよびTSV)と4.7 mmのワイド(SVWおよびTSVW)の4タイプとした。インプラント体の長軸長は,それぞれのインプラントについて8,10,11.5,13および16 mmの5つのタイプから症例に応じて選択した。

4. 術後の調査

リコール来院時の調査は,残存歯の歯周組織検査,インプラント周囲組織検査およびエックス線検査とし,6か月ごとのリコール来院が少なくとも2年以上継続したものを対象とした。臨床パラメータの測定および評価は施術した歯科医師とは別の歯科医師が行った。なお,エックス線写真による評価は12か月ごとに行った。

5. 検査項目

1) PPD(probing pocket depth;PPD)

PPDは,プラスティックプローブ(カラーコードプローブ,COLORVUE,Hu-Friedy,IL,USA)を用いてインプラント周囲の6点を計測し,その値から個々のインプラントの平均値(平均PPD)および,最も深い測定値(Max PPD)を記録した。

2) プラークの付着状況

プラークの付着状況は,改良型プラークインデックス(modified Plaque Index;mPlI)14)を用いて計測した。計測の基準は,0;目視およびプロープの擦過により上部構造物表面にプラークが確認できない,1;上部構造分辺縁部へのプロープの擦過によりわずかにプラークが検知,2;目視によりプラークが確認できる,3;多量の軟性物質の沈着を認める,に分類した。計測部位は,インプラント周囲を頬側3点,舌―口蓋側1点の4点とし,その平均をインプラントごとのスコアとした。

3) 辺縁粘膜の炎症

インプラント周囲粘膜の炎症は,改良型サルカスブリーディングインデックス(modified Sulcus Bleeding Index;mSBI)14)を用いて計測した。計測の基準は,インプラントに隣接した粘膜辺縁をプラスティックプローブで擦過した際,0;出血がない,1;孤立した出血点がみられる,2;インプラント粘膜辺縁に沿った線上の出血,3;著明な出血,に分類した。計測部位は,インプラント周囲を頬側3点,舌―口蓋側1点の4点とし,その平均をインプラントごとのスコアとした。

4) プロービング時の出血(Bleeding on Probing;BOP)15)

PPD測定後,30秒経過時のインプラント周囲溝からの出血の有無を確認し,6点法で測定した際の出血部位の割合を評価した。

5) インプラント辺縁骨吸収量(marginal bone loss;MBL)(図1

MBLはChaytorらの方法16)にしたがって,デンタルエックス線写真上で,インプラントショルダー部を基準点として,インプラントの近遠心部の骨の接合部と最根尖側部の距離を計測した。インプラントフィクスチャーの長径との拡大率により補正し,インプラント辺縁骨吸収量を算出した。さらに,このMBLを経過年数で除した値をMBL/yearとした。

図1

インプラント辺縁骨吸収量(MBL:marginal bone loss)12)

6) インプラント成功の定義

被験インプラントの機械研磨面がインプラント体上端部から1.5 mmであること,上端から第1スレッド開始部までが3 mmであることから,インプラント近遠心部の平均MBLが1.5 mm以下(MBL≦1.5 mm)および3.0 mm以下(MBL≦3.0 mm)の2段階でインプラントの成功を定義し,それぞれの基準での5年成功率を算定した。

7) インプラント周囲角化粘膜の幅(keratinized mucosa width;KMW)

インプラントの頬側面に接する角化粘膜の幅(KMW)は,インプラントの頬側中央部におけるインプラント周囲粘膜辺縁より可動粘膜までの垂直的な距離と定義し,歯周プローブを使用して計測した。

8) インプラント周囲粘膜の可動性の有無

粘膜の可動性の有無は,KMWを計測した位置に接する歯肉歯槽粘膜境に歯周プローブの横腹を水平に当て,口腔粘膜に角化粘膜が引っ張られるか否かを確認した。

9) 人権の保護および法令等の遵守への対応

本研究は明海大学歯学部倫理委員会の承認のもとに行った(承認番号A 1110)。研究への参加には,被験者への説明の後に文書により同意を得ている。

主な結果

1. インプラントの生存率(表1

明海大学歯学部附属明海大学病院歯周病科におけるインプラントの5年生存率は,99.4%11)および98.7%12)で高い値を示した。インプラントの長軸長で比較した5年生存率は,10 mm以下のインプラントが98.4%,13 mm以上のインプラントが97.7%13)であった。インプラントの長軸長10 mm以下の群と13 mm以上の群との間に有意差はなかった。

表1

明海大学歯周病科におけるインプラントの実態調査の概要

2. インプラント辺縁骨吸収量/年(Marginal Bone loss;MBL/year)

インプラントの長軸長別にみたMBL/yearは10),8 mmが0.25±0.10 mm,10 mmが0.38±0.28 mm,13 mmが0.40±0.28 mm,16 mmが0.45±0.29 mmとなり,インプラントの長軸長が長い方が辺縁骨の吸収量が大きくなる傾向がみられたが,有意差はなかった。また,長軸長10 mm以下と,13 mm以上のインプラントを比較すると,10 mm以下のMBL/yearが,0.37±0.27 mmであったのに対して,13 mm以上は0.41±0.29 mmであった。長軸長10 mm以下と13 mm以上との間には有意差はなかった11)。MBL/yearに影響を与える因子を,多項式ロジスティック回帰分析を用いて行った結果(表2),MBLが1.5 mm以上となることに影響を及ぼす因子として,性別(P=0.002)が示され,男性であることによるオッズ比は0.439であった。また,KMWについても有意差が認められ(P=0.001),オッズ比は1.376であった。一方,MBLが3.0 mm以上となることに影響を及ぼす因子として,性別に有意差が認められ(P=0.015),男性であることによるオッズ比は0.270であった。また,mSBI(オッズ比12.852,P=0.015),およびインプラント周囲の粘膜可動性(+)(オッズ比6.767,P=0.040)にそれぞれ有意差が認められた。

表2

MBLに影響を及ぼす因子のロジスティック回帰分析10)

3. インプラントの成功率

インプラント治療の成功の定義をMBL≦1.5 mmとした際の成功率は63.3%,MBL≦3.0 mmとした際の成功率は90.0%であった10)(図2-1, 2-2)。また,インプラントの成功率をインプラント長軸長で比較すると,10 mm以下のインプラントでは,インプラントの成功の定義をMBL≦1.5 mmとした際の成功率は61.1%,MBL≦3.0 mmとした際の成功率は91.2%であった。13 mm以上のインプラントでは,インプラントの成功の定義をMBL≦1.5 mmとした際は58.3%,MBL≦3.0 mmの場合には86.1%であった(図3-1, 3-2)。長軸長10 mm以下と長軸長13 mm以上との間には有意差はなかった11)

図2

インプラントの5年成功率10)

図3

インプラント長軸長別の5年成功率11)

4. 骨造成術の有無と用いた術式による影響(表3

インプラント埋入手術時の骨造成の有無およびその術式による平均MBL/yearの比較を行った結果,骨造成を行わなかった群が0.30±0.02 mmと最小であるのに対し,骨造成を行った群では0.49±0.02 mmと有意に大きい値となった(P<0.05)。また,骨造成を行った群のうち,用いた術式での比較では,ABG群で0.44±0.03 mm,TR+ABG群が0.49±0.35 mmであり,TR群で最も大きな値(0.54±0.03 mm)を示した。ANOVAにより有意差(P<0.0001)を示し,各群間の比較をTukey-Kramer's HSDで行った結果,骨造成を行わなかった群とその他の骨造成群との間に有意差が認められた(P<0.05)。

表3

骨造成の有無および術式による平均MBL/yearの比較12)

ANOVA:P<0.05,Tukey-Kramer's HSD(P<0.05 vs None),:Student's t-test(P<0.05 vs None)

ABG:自家骨移植群,TR:遮蔽膜群,TR+ABG:遮蔽膜+自家骨移植群,None:非骨造成群

5. KMWと臨床パラメータの比較

KMWの幅を,KMW 0 mm群,KMW 1~2 mm群,KMW≧3 mm群の3群に分け,各臨床パラメータについてANOVAを用いて分析を行った(表4)。その結果,Max PPD(P=0.048),Mean MBL(P<0.0001)およびMBL/year(P=0.003)にそれぞれ有意差が認められた。さらに,Tukey-Kramer's HSDを用いて各群の比較を行った結果,平均MBLおよびMBL/yearにおいてKMW 1~2 mm群とKMW≧3 mm群との間に有意差が認められた(P<0.05)。

表4

角化粘膜幅と臨床パラメータの比較13)

平均(mm)±SD P<0.05(Tukey-Kramer's HSD)

6. インプラント周囲粘膜の可動性と臨床パラメータの比較

粘膜可動性の有無と,臨床パラメータの関連をみた結果,粘膜可動性(-)の群の平均KMWは2.74 mmであるのに対し,粘膜可動性(+)の群では,平均0.26 mmと有意に小さな値(P<0.0001)を示した。

考察

インプラントの治療成績に影響をおよぼす因子には,症例の難易度,施術者の技術と経験,設備,使用したインプラントシステム,術式の選択などがあげられる。特に歯周炎の既往のある患者は,インプラント周囲に十分な角化粘膜がなく,また,顎堤の骨量が不十分でインプラントの埋入に際して骨造成を必要とする場合が少なくない。このような症例では術後の成績を予測することが難しくなることが多い。スウェーデンでは,社会保険庁によって,インプラントの施術,患者概要,およびメインテナンスがデータベースへ登録され管理されており,資格を有する医師はデータベース上の情報へ容易にアクセスすることができる17)。スウェーデンでは,国の社会保障政策から医療費の分配を目的として,データベース化が充実しているが,それでも,症例の選択,医師の技量,治療のプランニングまでが詳細に定められているわけではない。また,我々がインプラントに関する海外のシステマティックレビューや疫学調査を参考にする際,日本人と欧米人との間の顎顔面領域の解剖学的な違いが,データの利用を困難にする場合もある。我々の実態調査は,小規模なものであるが,単一の施設において一定のガイドラインにしたがって行われたもので,歯周病の既往のある日本人を対象としている点にも価値があるものと考える。

1. インプラントの生存率

明海大学歯学部附属明海大学病院歯周病科におけるインプラントの5年生存率は,97.7~99.4%9-11)であった。KlokkevoldとHan18)は,13編の論文によるシステマティックレビューから,歯周治療の既往のある患者に対するインプラントの生存率は95%で,歯周組織が健康な患者の97.1%に対して有意差はなかったとし,歯周病患者にインプラント治療を行う際でも,適切な歯周治療およびメインテナンスによって健常者とほぼ同等の治療成績が得られると報告している。一方,Ramanauskaiteら19)による,5年以上フォローアップされた14編の論文からなるシステマティックレビューでは,歯周炎患者と非歯周病患者との間のインプラントの生存率には有意差はなかったが,14編のすべてで非歯周炎患者群の方がより良好な生存率を示し,6編の論文では歯周炎患者のインプラント辺縁骨の吸収量およびインプラント周囲炎の有病率が統計学的に有意に高く,歯周炎の病歴がインプラント周囲炎のより高い罹患率と有意(P<0.001)に相関していたとしている。また,DerksとTomasi5)による11編の論文からなるシステマティックレビューでは,インプラントの機能年数の長いものほどインプラント周囲疾患の発症率が高かった。インプラント周囲疾患は,発症後に長期間にわたり無徴候性に進行することからも,メインテナンスプログラムを介して,インプラント周囲疾患の発症を未然に防ぐことの臨床的意義は高いものと考える。インプラントの長軸長から治療成績を比較した場合,Fugazzotto20)は,5年経過した198本の長軸長が6~9 mmのインプラントの成功率は98.8%で,das Nevesら21)による1年以上の追跡調査を行った26編の論文によるシステマティックレビューでは,10 mm以下のインプラント4,108本中抜去されたものは319本で,その生存率は92.2%であった。われわれの研究11)での5年生存率は,長軸長10 mm以下のインプラントが98.4%,13 mm以上のインプラントが97.7%で二群間に有意差は認められなかった。過去の論文は,歯周炎の既往のある患者のインプラントの生存率は,健常者と同等であることを支持している18,19)。われわれの研究でもインプラントの生存率に関しては同様の結果がみられた。

2. インプラント辺縁骨の吸収量

多項式ロジスティック回帰分析を用いたインプラント辺縁骨の吸収量に影響を及ぼす因子の抽出(表2)では,インプラント治療の成功をMBL≦1.5 mmとした場合,性別(女性),KMWに有意差がみられた。また,成功をMBL≦3.0 mmとした場合,性別(女性),改良型ブリーディングインデックス(+),およびインプラント周囲の粘膜可動性(+)にそれぞれ有意差が認められた。KMWの幅はMBL≦1.5 mmでは有意差があったがMBL≦3.0 mmでは有意差はみられなかった。この事からKMWの幅は,インプラント周囲炎の発症した初期に影響することが示唆された。

3. インプラントの成功率

われわれの研究10-12)ではScrew-VentおよびTapered Screw-Ventインプラントの成功の基準をインプラント体上端部から1.5 mmの機械研磨面までのMBL≦1.5 mm,およびインプラント体上端部から3.0 mmの第1スレッドまでのMBL≦3.0 mmの2段階で評価した。しかし,インプラント体の形態は様々である。生存率はインプラントが口腔内にあるかどうかで明確に判断されるが,成功率の場合では,その定義や基準は研究者の判断や用いるインプラントシステムなどで多様性がある。インプラント周囲溝の深さやBOPなど,インプラント周囲炎の発症を基準にする考えもあるが,いまだ標準化はされてはいない。われわれの研究10)ではインプラントの成功の定義をMBL≦1.5 mmとした際の成功率は63.3%,MBL≦3.0 mmとした際の成功率は90.0%であった。エックス線検査によるMBLを基準とした方法は容易であり客観的な評価にも向いているものと考えられた。

4. 骨造成の有無と種類

Zitzmannら22)は,インプラント埋入手術時に唇頬側に生じた裂開状骨欠損に対して骨造成を行った場合の生存率は,骨量が十分にある部位に埋入されたインプラントと同程度であると報告している。一方で,Jensenら23)による歯槽堤の局所欠損に対する骨造成術の臨床成績に関するシステマティックレビューでは,裂開状および開窓状骨欠損に対する骨の回復率は54~97%で,骨欠損部が完全に骨で満たされたのは全体の68.5%であったとし,骨欠損部位における骨の回復の成否は欠損の範囲および形態に影響されるのではないかと考察している。われわれの研究12)では,骨造成群は非骨造成群と比較してMBL/yearが大きくなる一方,遮蔽膜と自家骨移植を併用することにより,吸収量が抑えられる傾向がみられた。また,インプラントの生存率による比較では骨造成の有無による差は認められなかったが,MBL/yearには有意差が認められた。このことから,骨造成の評価には,MBL/yearを用いた詳細な評価が有用であることが示唆された。

5. インプラント周囲軟組織の状態

われわれの研究では13)インプラント周囲の粘膜の可動性を有する角化粘膜幅0 mm群および,角化粘膜の幅が≧3 mm群は,インプラント周囲のポケットの深さや骨吸収の量が大きくなる傾向があり,一方で,角化粘膜の幅が1~2 mm群では,平均MBLおよびMBL/yearの値が有意に低かった。インプラント周囲組織における角化粘膜は1 mm以上で3 mm未満の幅が適正である可能性が示された。Wennströmら24)は,39名の患者の171本のインプラントを対象にした研究でインプラント周囲の角化粘膜の幅が2 mm未満と2 mm以上とを比較し,両群のプラーク指数および歯肉炎症指数には差がなかったと報告している。Chungら25)は,角化粘膜の欠如が炎症の発現に関わるが,骨吸収には関与しないと報告している。一方,Suárez-López Del Amoら26)による8編の論文を対象とした最近のシステマティックレビューでは,インプラント周囲の角化粘膜の厚さを有する群のMBLは少ないと結論づけている。

6. その他のリスク要因

これまでのわれわれの研究では,調査対象ではなかったが,今後,評価が必要と考えられるリスク要因には下記のようなものがある。

1) インプラント周囲溝内の細菌

これまで,インプラント周囲炎は,同一患者では,インプラント周囲溝と歯周ポケットの細菌種が近似していることから,口腔内の細菌がリザーバーとなり伝播するものと考えられてきた27)。最近のPérez-Chaparら28)による健康およびインプラント周囲炎のインプラントからの歯肉縁下微生物を比較したシステマティックレビューでは,インプラント周囲炎の病因とPorphyromonas gingivalisTreponema denticolaTannerella forsythiaPrevotella intermedia,およびCampylobacter rectusとの関連性を示唆している。しかし,Pérez-Chaparらのレビューで対象とした11編の論文は,red complex菌種のみから78菌種を対象としたものまで数に幅があった。koyanagiら29)は,同一口腔内のインプラント周囲炎および歯周炎の歯肉縁下プラークから16S rRNA遺伝子クローンライブラリーおよびリアルタイムポリメラーゼ連鎖反応により同定された細菌は,歯周炎が148菌種であったのに対し,インプラント周囲炎は192菌種であり,一般的な歯周病細菌の検出率も低かったと報告している。これらのことから,最近では,インプラントの周囲炎のバイオフィルムは,歯周炎よりもより多くの微生物による複合感染であるという考え方が主導的である。

2) 患者の年齢

Sendykら30)による老化がインプラントのトラブルに及ぼす影響を評価するために60歳以上の高齢者群と59歳以下の対照群を比較して生存率を調べたシステマティックレビューによると,メタ分析の結果,高齢者群におけるインプラント喪失のリスクは高い傾向は認められたものの,有意差はなかった。この結果は,年齢はインプラント治療の制限要因ではないことを示唆しているのかもしれない。

3) SPT(Supportive periodontal therapy)とメインテナンス

われわれの研究の被験者は歯周炎の既往があり,天然残存歯のある患者群である。そのため,治療後のフォローアップは歯周疾患のSPTに準じて行い,歯周疾患の再発がみられた場合は,改めて歯周基本治療を行っている。Pjeturssonら31)は70人の歯周炎の既往のある患者の165本のインプラントを平均7.9年追跡調査した結果,再評価時に天然歯に5 mm以上のポケットがみられた比率は非インプラント周囲炎群の患者1.9に対してインプラント周囲炎(PPD 5 mm以上,BOP(+))患者群は4.1で,2倍以上高かったとしている。歯周炎患者ではSPT期において,インプラントのみならず,残存歯の歯周炎の再発予防に努めることは口腔の機能を長期的に保つうえで重要であると考える。

結論

明海大学歯学部付属明海大学病院歯周病科での歯周疾患に既往のある患者を対象としたインプラントの実態調査の結果から以下の所見がみられた。

1.インプラントの5年生存率は,97.7~99.4%であった。

2.成功率をMBL 1.5 mmとした場合,性別(女性),KMW(+)に有意差がみられた。また,成功率をMBL 3.0 mmとした場合,性別(女性),mSBI(+),およびインプラント周囲の粘膜可動性(+)にそれぞれ有意差が認められた。

3.骨造成群は,非骨造成群と比較してMBL/yearが大きくなる一方,遮蔽膜と自家骨移植を併用することにより,吸収量が抑えられる傾向がみられた。

4.角化粘膜の幅とMBLおよびMBL/yearの値の関係を見ると,角化粘膜の幅1~2 mm群が有意に低かった。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2017 by The Japanese Society of Periodontology
feedback
Top