日本歯周病学会会誌
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ミニレビュー
コエンザイムQ10
菅野 直之
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2017 年 59 巻 2 号 p. 63-67

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歯周組織の健康状態は,機械的プラークコントロールによる口腔衛生状態,遺伝的および後天的因子,全身の健康状態および栄養摂取などの多くの要因によって影響される。歯周病と栄養摂取との相関を調べたこれまでの研究では,バランスのとれた食事は歯周組織の健康維持に不可欠な役割を果たしており,ビタミンCなどの栄養素の摂取は歯周病のリスクを減少させると考えられている1)。本稿では,特に高齢者でその減少が著しい生理活性物質で,サプリメントとして広く販売されているコエンザイムQ10(CoQ10)についてアンチエイジングの観点から紹介する。このようなサプリメント全体に共通するのは「健康効果」と謳われていながら大規模かつ長期にわたる無作為化比較試験で有効性が立証されているものはほとんどなく,利益追求のため多くのサプリメントで「個人の感想」レベルの情報がテレビのCMやネットで氾濫し,正確な情報が届きにくいのが現実である。ここでは私自身が「個人の感想」として効果を実感しているCoQ10にどのような「健康効果」のエビデンスが存在するのかを紹介したい。

1. 生体におけるCoQ10の役割(図1

1957年にウシ心筋ミトコンドリアの電子伝達系の構成成分として発見されたCoQ10は,Quinone(キノン)骨格とイソプレノイド側鎖の繰り返し回数10回を持つCoenzyme(補酵素)であることが名前の由来である(図2)。

CoQ10の生理活性としてミトコンドリア賦活効果と抗酸化活性が知られている。1つの細胞には数百~数千のミトコンドリアが含まれ,ヒトの60兆の細胞には数京個のミトコンドリアが存在し,その重さは体重の10%に相当すると考えられている。この生体のエネルギー産生工場であるミトコンドリアで大切な役割を果たしているのがCoQ10である。

CoQ10はミトコンドリアの電子伝達系で電子の授受に関与し,ATP合成の効率を高める補酵素として働いている。後述するCoQ10の様々な生理活性はATP合成の効率化による細胞や組織の賦活によるものと考えられている。このような作用からCoQ10は心筋機能の傷害を軽減するうっ血性心不全の治療薬として医薬品として使われてきたが,薬事法の一部改正により2001年から健康食品として利用可能になっている。

抗酸化物質としてはビタミンEと共同して働くと考えられている。生体の物質が酸化ストレスに曝されると,ビタミンEが活性酸素種を消去してビタミンEラジカルが生じる。これを還元型CoQ10(ユビキノール)が還元してビタミンEに再生し,自らは酸化型CoQ10(ユビキノン)となる。酸化型CoQ10は血流をめぐり肝臓に吸収されたのちに還元され,再び還元型CoQ10となり血液中に放出され全身をめぐる。健常者では血液中のCoQ10の95%以上が還元型の状態で維持されている2)

図1

コエンザイムQ10の作用メカニズムのイメージ図

図2

還元型コエンザイムQ10(ユビキノール)の構造式

2. CoQ10の低下

CoQ10は生体内で合成が可能な物質である。しかしながらその半数は食べ物由来であると報告されている3)。図3に示すようにイワシなどの青魚を筆頭に魚や肉などの動物性食品に多く,バターやチーズなどの乳製品,大豆や落花生,ブロッコリーなどにも含まれている4)。加齢による生合成の低下と食事からの摂取低下により,図4に示すように高齢者では,臓器に含まれるCoQ10が低下する5)。また,加齢に伴い還元型CoQ10の割合も低下し2),寝たきりの高齢者や糖尿病患者ではその量と割合が著しく低下することが報告されている6)。特に糖尿病患者での還元型の割合の減少は顕著で健常者平均が男性93±6%,女性95±6%に対し糖尿病患者での平均が男性24±11%,女性29±16%と有意に減少しており,糖尿病による全身の酸化ストレス亢進が原因であると考えられている7)

脂質異常症の治療薬であるスタチンは血液中のCoQ10濃度を低下させることが知られている。体内のコレステロール合成経路とCoQ10合成経路は一部共通しており,スタチンはコレステロールの合成を抑制するだけでなく,CoQ10の合成も減らしてしまうことから,スタチンの服用後2週間で血液中CoQ10濃度は25~50%減少することが報告されており,意識的に補う必要性も指摘されている8)

図3

食物中のコエンザイムQ10

図4

加齢とともにコエンザイムQ10は減少する

3. 口腔領域でのCoQ10の効果

著者らは全身的に健康な軽度から中等度慢性歯周炎と診断された患者を対象に,臨床研究を行った9)。実験群には1錠に還元型CoQ10を50 mg含むサプリメントを1回1錠,1日3回,食後に8週間摂取させ,対照群には還元型CoQ10を含有しない同じ形状のカプセルを用い,二重盲検法で行った。実験群は20名(男性17名,女性3名),平均年齢40.9±10.1歳,対照群は25名(男性20名,女性5名)38.2±12.9歳で,研究開始時に臨床症状も含め,群間に有意な差はなかった。4週後すべての診査項目において,実験群と対照群間に統計学的に有意な差はなかったが,投与前後では実験群でプロービング時の出血(BOP)の有意な減少が見られた。8週後においても同様に実験群と対照群間に統計学的に有意な差はなかったが,投与前後では実験群でプラークコントロールレコードおよびBOPの有意な減少,対照群でBOPの有意な減少と平均ポケット深さの増加が見られた。口臭は実験群で減少する傾向が見られ,唾液の抗酸化能は4および8週後において実験群では有意な変化はなかったが,8週後の対照群で有意な低下が見られた。

1970年代以降,CoQ10の歯周病に対するいくつかの研究がなされたが,Wattsは1995年にその効果は認められなかったと結論付けている10)。しかしながら,これらの研究はすべて酸化型CoQ10を用いた研究であったため,その効果が限定的であったと考えられる。高齢者では肝臓などでの還元能力が低下することから,CoQ10の摂取は還元型が望ましいとされている11,12)。急性心筋梗塞の際,還元型が減少し酸化型は30%程度まで著明に増加することが知られ,還元型CoQ10を投与することにより心機能の改善が見られることが報告されていることから,酸化ストレスが関与する疾患に対する効果が期待されている13)。歯周病も特に重度の症例では唾液中の酸化ストレスが上昇していることが報告されており14),歯周組織での還元型CoQ10の減少が推測される。歯周病患者への還元型CoQ10の投与は細胞や組織のATP合成を増大させ,多くの生体内システムを活性化するとともに酸化反応と抗酸化反応のバランスを取り戻し,組織障害の改善や炎症を軽減する効果が期待できると考えている。本研究以外にも口腔領域においては,ドライマウス患者において還元型CoQ10の摂取により唾液の分泌量が増加することが示されている15)。この研究では,還元型CoQ10が唾液腺の細胞のATP合成量を増大させ,細胞が賦活化した結果として唾液量が増加したものと結論付けている。この唾液量の増加も前述の歯周病に対する効果の一因ではないかと推測している。

動物実験では還元型CoQ10を含む軟膏をラット歯肉に2カ月間塗布した研究がある。この研究ではプラセボ群に比べ歯肉の酸化ストレスが有意に抑制され,この酸化ストレス抑制効果が加齢に伴う炎症反応や破骨細胞の分化を低下させたとしている16)

4. CoQ10のアンチエイジング効果

老化促進モデルマウスを用いた研究では,運動性や毛並みなどを評価した老化度評価において,還元型CoQ10摂取により有意な老化の遅延が見られた17)

ヒトを対象にした長期研究では,愛媛県上島町在住の124名の成人(男性36名女性88名,22~88歳)を対象に12カ月間,還元型CoQ10を1日100 mg継続摂取してもらい,摂取前後の血中CoQ10濃度の測定とQuality of Life(QOL)をSF-36質問票により評価している18)。その結果,男性参加者ではSF-36のいずれの項目でも有意な変化は見られなかったが,女性参加者ではSF-36サブスケールのうち,日常役割機能,活力,社会生活機能,心の健康,精神系サマリーなど,主に精神系のQOLスコアが有意に改善した。血中還元型CoQ10濃度の平均は1.05 μg/mlから4.25 μg/mlへと有意に上昇した。摂取前の濃度で3群にわけると,摂取前の濃度が高い群の女性では前述の指標に有意な変化はなく,濃度レベルが低および中の群で有意な上昇が見られた。男性は摂取前の血中濃度が高かったことから,効果については性差よりも摂取前の血中濃度が影響している可能性が高い。

同上島町の研究では認知機能の変化についても検証している。41名を対象に6カ月間,還元型CoQ10を1日100 mg継続摂取してもらい,認知機能検査(Digit Symbol Substitution Test)を行った。その結果,65歳未満では認知機能検査に変化は見られず,65歳以上(21名)で有意な上昇が見られた。摂取前の血中還元型CoQ10濃度での比較では,濃度が低い群で有意な上昇が見られ,濃度が高い群では有意な変化は見られなかった。また,米国においてパーキンソン病の初期患者を対象にした研究で還元型CoQ10の摂取により,16カ月後の神経症状評価スケールによる評価で病勢の進行が有意に抑制されたことが示されており,脳内でのミトコンドリア機能異常と酸化ストレスの改善に還元型CoQ10が寄与したものと推測している19)

慢性疲労症候群患者31名(還元型CoQ10群17名,プラセボ群14名)を対象に,還元型CoQ10(150 mg/日)を3カ月間投与し,投与前と投与終了時の変化を疲労・睡眠・うつ症状に関する自覚的症状の得点,酸化ストレス・抗酸化力,計算課題により評価した。その結果,還元型CoQ10の血中濃度は統計学的に有意に増加し,単純計算課題の回答数・正答数の有意な上昇(作業効率の改善),中途覚醒回数の有意な減少(睡眠の改善)が認められたほか,指先の心拍変動を測定する加速度脈波による評価においても自律神経機能の低下の抑制が認められ,還元型CoQ10のミトコンドリア賦活作用による慢性疲労症候群の改善効果が示唆されている20)

5. CoQ10の運動への効果

「個人の感想」として還元型CoQ10の摂取を開始してから長年続けていたジョギングが楽になったと感じている。運動をすればするほど,活性酸素というマイナスの副産物が生まれてしまうことは避けられない。エネルギーを作るには酸素は不可欠だが,吸った酸素の2~3%が活性酸素になり,体にダメージを与える。この活性酸素対策として還元型CoQ10が有効であると考えられている。

高齢ラットを用いた動物実験では,トレッドミルでの走行時間をクロスオーバー試験で評価したところ,還元型CoQ10摂取群で走行時間が有意に延長したことが示されている21)。ヒトを対象とした研究では,オリンピックを目指しているアスリート100名を対象に還元型CoQ10の効果を検討した報告がある22)。実験群には還元型CoQ10 300 mg/日を6週間摂取させ,プラセボ群と比較した。その結果,血漿乳酸値が4mmol/mlに達したときの最大運動強度(ペダル踏み運動器で測定)はプラセボ群より有意に増加したことが示された。バランスの取れた食事をとり,トレーニングを積んでいる若いアスリートにおいても運動能力の向上がみられたことは,還元型CoQ10の継続的な摂取によるミトコンドリアの電子伝達系の効率化や抗酸化作用により運動能力の向上が見られたものと推測される。もちろん一般人であっても,骨格筋の機能,筋肉中のミトコンドリアの量と質を高めるにはCoQ10の摂取だけでなく継続した負荷トレーニングが必須である。

6. CoQ10の安全性

サプリメントはその手軽さから服用に伴う副作用が軽視されがちである。健常者を対象としてCoQ10を300 mg/日,4週間摂取で安全との評価がなされている。また,前述の上島町を対象とした100~120 mg/日,2年間摂取研究においても,血液生化学検査で摂取前に比較して悪化が認められる項目はなかった。CoQ10などのサプリメントは,慢性疾患を有する患者での服用も想定される。糖尿病薬および降圧剤との併用での安全性評価試験が報告されており,いずれも安全性の問題は見られなかった23,24)。糖尿病薬との併用ではHbA1cの低下,降圧剤との併用では血圧と肝機能マーカーの有意な改善が示されている。著者が検索した範囲内では1例,CoQ10の関与が疑われる薬剤性肺炎が本邦で報告されている25)。薬剤性肺炎は抗がん剤,抗生物質,漢方薬など様々な薬剤が原因と考えられており,CoQ10に特異的なものでは無いとはいえ,これまでに健康食品やサプリメントによる健康被害は肝障害などが報告されており26),安全性を妄信せずに注意を払う必要がある。

7. イワシの頭も信心から?

高齢患者さんに多く見られる咀嚼機能の低下による低栄養は,サルコペニア,ロコモティブシンドロームを引き起こす可能性が高い。歯科から健康寿命の延伸に寄与するためには栄養摂取指導も必要となるであろう。著者らがこれまでに行った研究だけでなく,今回紹介した介入試験でもプラセボ群において各種指標の改善がみられる傾向にある。このことは,たとえプラセボであっても新たなサプリメントの摂取習慣が,さまざまな行動変容をもたらすことは想像に難くない。安全性が担保されるのであればCoQ10のようなサプリメントを積極的に取り入れることも患者さんの口腔を含む健康増進につながる一つの方策として検討に値するのではないだろうか。あとは皆様の自己体験も含めたご判断に委ねたい。

今回紹介したCoQ10以外にもビタミンC,ビタミンD,カルシウム,オメガ-3系脂肪酸などの栄養素が歯周病のリスク減少に効果があると報告されており1),これらの栄養素が豊富に含まれる私の好きな「イワシのトマト煮」には,歯周病の予防効果があるかもしれない。今後,さらなるデータの蓄積により食品やサプリメントの有用性が明らかになることを期待したい。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

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