Nihon Shishubyo Gakkai Kaishi (Journal of the Japanese Society of Periodontology)
Online ISSN : 1880-408X
Print ISSN : 0385-0110
ISSN-L : 0385-0110
Educational Award
Usefulness of educational periodontal treatment systems in postgraduate clinical training immediately after graduation during oral unit treatment planning and treatment and Invitation to certified dentists/periodontist -Effects of Matsumoto Dental University Hospital from compulsory clinical training from start to the present
Jun-ichi OtogotoTakeo Fujii
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2021 Volume 63 Issue 1 Pages 24-30

Details
要旨

松本歯科大学病院では臨床研修必修化以前から卒直後臨床研修プログラムを実施しており,病院機構改革に伴って数種類の方法で研修と指導を行ってきた。その中で歯周治療指導の4種類のシステムを紹介し,システムの違いによる歯周治療指導の成果を報告する。

臨床研修必修化以前(SYSTEM 0)は,1口腔単位の臨床研修を推進しておらず,歯周組織検査,SRPを必修症例としていた。臨床研修必修化後の2001~2005年度に行った臨床研修における歯周治療指導方法(SYSTEM 1)は,1口腔単位の診療が開始された。2006~2010年度の歯周治療指導方法(SYSTEM 2)は,歯周病認定医・専門医の指導が開始された。2011年度以降の歯周治療指導方法(SYSTEM 3)は,歯周治療を保険治療の流れに沿って行った。またSYSTEM 3以降は臨床研修歯科医の歯周治療専用診療チェアを確保できた。

SYSTEM 2までは課された症例数を超す研修歯科医は多くなかったが,SYSTEM 3は歯周基本治療症例数や歯周外科手術を行う症例が増加し,歯周治療後のSPTへの移行や歯周治療を含む症例報告数が増加した。

研修歯科医が歯周治療を積極的に行う環境設定が出来たことで1口腔単位の治療の関心も高まり,治療内容の充実に繋がった。現在は,どの診療でも歯周治療を行うことができ,治療データ保存が習慣化することで歯周病認定医/専門医に移行する道筋が出来た。

緒言

2001年度から法制化された歯科医師臨床研修は1口腔単位の歯科治療を目指している1)。その目標として,歯周治療は高頻度治療として位置づけられている1)。同じく,歯周病認定医,専門医を目指す臨床研修医にとっても歯科医師臨床研修期間は歯科医師の第一歩として重要な位置づけとなる。

松本歯科大学病院においては,歯科医師臨床研修必修化前の1998年度から臨床研修プログラムを立ち上げ,運用している。その当初から歯周治療は必修の技能として必修症例を設定し,患者配当を行ってきた。併せて病院の機構改革や新築ならびに医科新設等に伴い,臨床研修歯科医に対する歯周治療の指導体制も変化してきた。2001年度から臨床研修における研修管理委員会のプログラム責任者となった筆者は,卒直後臨床研修を歯周治療ベースのものに変革し,さらに歯周治療ベースの口腔治療を一般化することにより,無理なく歯周治療に取り組むこととした。その期間は10数年にわたり,病院の機構改革や講座編成に伴う臨床研修における歯周治療を行うシステムの変更により,4種類の歯周治療指導体制を構築した。それにより歯周治療の教育が無理なく行われ,臨床研修歯科医による歯周治療ベースの臨床が幅広く行われるようになるという成果を得た。

一方では,日本歯周病学会においては,臨床研修以降,認定医・専門医取得に至る歯周治療の内容を示すガイドラインは存在するが2-6),指導体制,特に臨床研修における歯周治療指導に関する報告は国内外においてもほぼ見当たらないのが現状である。

上記の松本歯科大学・松本歯科大学病院で取り組んでいる臨床研修医制度における臨床研修歯科医への歯周治療指導体制の特徴とそれぞれの指導体制における歯周病認定医,歯周病専門医を目指す歯科医師育成例を学術大会にて報告してきた7-9)。さらに日本歯周病学会60周年記念大会京都大会シンポジウム「歯周病専門医の育成を考える」において報告した10)。その成果により,2020年度日本歯周病学会教育賞を受賞した11)。本内容が会員指導医あるいは歯周病研修施設における指導の一助になれば幸いである。

臨床研修対象および方法

1.実施病院:松本歯科大学病院(長野県塩尻市)12)

2.指導体制

1)1998~2000年度:SYSTEM 0(SYS 0)

2)2001~2005年度:SYSTEM 1(SYS 1)

3)2006~2010年度:SYSTEM 2(SYS 2)

4)2011~2018年度:SYSTEM 3(SYS 3)

臨床研修プログラムにおいては,必修症例「数」はあくまでも最低限の目標症例数としていた。すべての年度を通じて症例実施数は必修症例数を超えていた。

研修歯科医への患者配当の流れを図1,指導体制を表1に示す。

SYS 0:臨床研修必修化前のこの時期は,総合診療科がすべての臨床研修歯科医を指導した。1口腔単位ではなく,検査・治療項目毎に歯周病科指導歯科医から配当を受けた。具体的な必修実施症例数は1)歯周組織検査(10例),2)縁上スケーリングあるいはSRP(10例),3)TBI(5例)であった。

SYS 1:1口腔単位の治療を推奨することとなった。歯周症例の配当は歯周病科指導医から配当された。必修配当症例数は3であった。

SYS 2:病院と講座改変に伴い,歯周治療指導は,歯周病科と総合診療室の2部門指導体制となった。配当は指導歯科医の所属(総合診療室あるいは歯周病科)に応じて行われた。必修配当症例数は10であった。

総合口腔診療室(現在の総合口腔診療部門)が創設されたことにより,歯周病認定医・指導医を持つ歯科医師も分散することが可能となった。

SYS 3:病院に歯周病科(保存科・補綴科も同様)という名称がなくなり総合診療口腔診療室の体制となった。どの指導医グループにも歯周病認定医あるいは専門医が所属していた。必修配当症例数は15であった。

SYS 3においては,指導歯科医は歯周病専門医に固定しない,TBIは歯科衛生士が行う,指導エリアを歯周病科に限定せず,歯周基本治療を行う診療チェアを提供(6台)した。

SYS 3において歯周治療の流れは日本歯周病学会の歯周治療の指針に従い,すべての担当症例は治療計画を作成し,指導歯科医の指導を受けた。さらに,1口腔単位治療を常に目指し,歯周基本治療を必須として指導した。初診時歯周組織検査・口腔内写真撮影等記録をとり,計画立案から治療を行う習慣とう蝕治療・補綴治療・簡単な口腔外科治療を並行して行うようになった。

3.対象者数(表1):2001年度~2018年度 松本歯科大学病院臨床研修(1年間)を行った臨床研修歯科医845名。

(途中からの研修開始者,研修中断者を除く)

4.各指導システムの比較項目と方法

1)比較項目:SYS毎と年度毎の比較を行った。

(1)配当歯周治療実施症例数の比較:研修歯科医1名あたりの実施数比較を行った。また同じSYSにおいても年度毎の実施数を比較した。

(2)総配当症例数に対する実施症例数が占める比率:研修歯科医1名あたりの総配当症例数に占める歯周治療症例の割合を比較した。また同じSYSにおいても年度毎の実施割合を比較した。

(3)メインテナンス・SPT移行症例率の比較:歯周治療配当症例のうち,歯周治療後に再来院して,再来初診として歯周組織検査・治療を行ったり,SPT症例として継続治療を行った症例の割合を比較した。また同じSYSにおいても年度毎の実施割合を比較した。

(4)SRP・歯周外科症例数の比較:歯周治療配当症例の中でSRPを行った,あるいはポケット掻爬術や歯周外科を行った症例数を指導システム毎に比較した。また指導者の指導経験年数と指導を受けた実施症例数の相関を比較した。

(5)症例報告で示される歯周治療症例割合:毎年年度末に行われる症例報告において歯周治療が含まれている発表の割合を比較した。

2)比較方法

統計学的分析としてExcel統計(アカデミック版,Bellcurve,東京)を用い,症例数や症例比率の年度毎およびシステム毎の比較はunpaired Student-t-test(p<0.01あるいはp<0.05)を行い,指導歯科医の経験年数と歯周基本治療・SRPや歯周外科処置の実施症例数を歯周病指導医・歯周病認定医(歯周系指導医)とそれ以外の指導医に対してSpearmanの順位相関係数を算出して比較検討した。

3)倫理審査

本研究内容については松本歯科大学倫理審査委員会(224号)によって承認されている。

図1

研修歯科医への患者配当の流れ

表1

指導体制と対象者

結果

1) 実施症例数(図2

研修システムの変化に伴って統計学的有意に増加していた。また増加傾向は必修症例数の数ともほぼ比例していた。研修システム内の年度毎の変化には増減はあるもの統計学的に有意な差は認めなかった。

図2

歯周治療実施症例数の比較

2) 総配当症例数に対する歯周治療症例数が占める比率(図3

研修システムの変化に伴って統計学的に有意に増加していた。とくにSYS 0,SYS 1,SYS 2とSYS 3には有意な差があり,SYS 3においては80%を超していた。各システム内の年度毎比較においては大きな増減を認めなかった。

図3

総配当症例中に行う歯周治療の割合

3) メインテナンス・SPT移行症例率の比較(図4

SYS 0は他のシステムと有意差を示さなかったが,SYS 1とSYS 2,SYS 1,SYS 2とSYS 3は有意にメインテナンス・SPT移行症例数が増加していた。各システム内の年度毎比較においては大きな増減を認めなかった。

図4

メインテナンス・SPT移行症例率の比較

4) SRP・歯周外科症例数(図5

SRP・歯周外科として行う症例数もSYS 1,SYS 2,SYS 3に伴って実施数は統計学的有意に増加していた。各システム内の年度毎比較においては大きな増減を認めなかった。

図5

研修歯科医1人あたりSRP+歯周外科症例数

5) 症例報告で示される歯周治療を行った症例の割合(図6

症例報告された症例中に歯周治療を行った症例数の割合は,SYS 1,SYS 2,SYS 3に伴って統計学的有意に増加していた。その割合はSYS 3において8割を超えていた。各システム内の年度毎比較においては大きな増減を認めなかった。

また図3に示されている歯周治療症例数の割合との相関を検討すると,歯周治療症例数割合の増加と症例報告の歯周治療症例の割合は有意な相関を認めた(ρ=0.55)。

図6

症例報告に占める歯周治療を行った症例割合

考察

1) 本論文の歯周病学の教育に関わる意義

歯科医学教育モデルコアカリキュラム13)に示された卒前教育歯周病学の座学と基礎実習を経て参加する臨床実習を習得した歯科学生は,臨床研修に歯科医師として参加する。また現在,歯科医学教育プログラムはアウトカム基盤型に変貌を遂げている13)。この過程において指導歯科医として,歯科医師臨床研修における1口腔単位の総合的診療計画の歯周病認定医・専門医に必要な基本的臨床手技が習得できるようなプログラムを構築できていることが望ましい。

過去の日本歯周病学会誌ならびに日本歯周病学会学術大会を振り返っても,臨床研修における歯周治療指導の取組とその成果ならびに比較に関する報告は散見されず,さらに長期にわたる指導成果の報告も見当たらない。そのため本研究内容と研究のベースとなった臨床研修における歯周治療教育の取組みとその成果は,卒後臨床研修と卒前臨床実習の継続性が求められていることを鑑みれば,多大なる参考資料となることは間違いない。

2) 歯科医師臨床研修における本システムの特徴と成果

SYS 0においては,1口腔単位の治療ではなかったため,患者単位の継続した指導が行い難く,長期的に管理治療する歯周病治療には向いていない指導方法であった。

臨床研修必修化になってから行われたSYS 1においては,1口腔単位治療が推進され,歯周治療が行いやすい環境が整ったものの,指導歯科医がその指導体制に慣れていないこともあり,以降のSYS 2やSYS 3と比較して充分な症例数が行えなかったと推察される。

SYS 2における指導体制は,指導経験がある指導歯科医ならびに歯周病認定医・専門医が増加したことにより,多くの歯周治療症例を課すことができるようになった。しかし,歯科治療は歯周病治療だけではないために,臨床研修歯科医の意向もあり,一部では必修症例数に達するのが研修終了間際になってしまう傾向も散見された。

特記すべきは厚生労働省認定の指導歯科医講習会を受講した臨床研修指導歯科医であれば,研修歯科医へ歯周治療症例を配当できたSYS 3以降である。これにより指導歯科医側の歯周治療に関する意識向上と歯周治療への理解が深まった。さらにSYS 3を経験した臨床研修歯科医がSYS 3後期である2016年度以降においては臨床研修を経験した歯科医師が指導歯科医となり指導したことが効果的に生かされた(図7)ことも,2016年度以降に充実した指導体制となった一因であった。すなわち,SYS 3における歯周治療の流れは日本歯周病学会の歯周治療の指針2)に従い,すべての担当症例はその指針を基に治療計画を作成し,指導歯科医の指導を受けた。さらに,1口腔単位治療を常に目指し,歯周基本治療を必須として指導した。初診時歯周組織検査・口腔内写真撮影等記録をとること,治療計画立案から治療を行う習慣付けが他の保存治療・補綴治療・口腔外科治療を並行して行うことができるようになった。

また,SYS 3においては調査最終年度(2018年度)は歯周治療を行った症例の割合が90%近くと多く,このシステムが開始された年度(2011年度)と比較し,統計学的有意差を認めた。さらにSYS 3においてはメインテナンス・SPTに移行した症例が増加し,さらに1年間の間で再来初診として2回目の歯周治療を行った症例を加えると半数を超えていた(図7)。また指導医の経験年数に関わらず,これらの症例を行うことができたことは,SYS 3における一般歯周治療の指導により歯周病認定医・指導医以外でも歯周治療が日常指導できる平均症例数の平均に有意差がない(図8)ことから,一般歯科医師が歯周治療を行うことが浸透していた。一方では今回のSYS 3の後半(2017-18年度)における調査では歯周病認定医・指導医によるSRPと歯周外科治療症例数指導数の優位性があることも表3の結果から確認できた。

すなわちSYS 3においては

(1)治療データを採取,保存し,振り返りを習慣化することで歯周病認定医/専門医に移行する道筋が出来た。

(2)研修を受けた指導歯科医が生まれることで,歯周治療の指導が自然に行える。

(3)研修歯科医の診療エリアを作ることで,量的ならびに質的成果が認められ,歯周病専門医を目指すことが容易であった。

つまり<変化を比較し,評価を行う習慣づけ>を行うことができた。

一方でこの結果を,アクティブラーニング14)を基盤として考察すれば「学習者に行動させ,その内容を省察させる」という習慣を歯周組織検査を行うことにより修得することができた。「Task:課題」:歯周治療が1口腔単位診療の基本という,認知的不協和を与え,内的動機の向上が確認できた。さらに「Autonomy:自主性」では毎日のポートフォリオ記録と必修症例進捗の比較表から自己評価を促すことも推進している。その結果,深い学びとして量(症例数)の増加を認めただけでなく,質(SRPと歯周外科症例)が増加したのである。

図7

メインテナンス・SPT移行割合:SYS 3

図8

指導経験年数と症例数の相関

表3

歯周病認定医・指導医とそれ以外の指導医との歯周治療の相関係数(ρ値:2017-2018年度)

3) 専門医制度と教育手法:歯周治療教育の展望

現在は,専門医制度が構築されており,日本歯科専門医機構により歯周病専門医が承認されることとなった。現在よりもより真摯な立場で,指導歯科医として後進の歯周病認定医・専門医を育成しなくてはならない。

そのためにはまず,卒前教育と卒直後教育(臨床研修)において,本学会の認定医制度や専門医制度を周知する必要がある。その責務は大学に所属する歯周病指導医に課せられているわけだが,松本歯科大学においては,表2に示すように入学から卒業・臨床研修に至る間に最低4回の説明機会を設けている。当然その間には座学,基礎実習,臨床実習があるため,より認定医,専門医や指導歯科医に話を聞く機会が増えると思われる。その結果,この10年で歯周病学講座においては10数名,さらにそれ以外の進路においても歯周病認定医を取得した歯科医師が5名以上(7名)誕生したことは喜ばしいし,本研修制度が活かされた成果であると推察される。

筆者らはこれからも病院統括者や他の診療科の指導歯科医の了解を得ながらこれら指導を推進するとともに,歯学部教育から臨床研修を通じてキャリアデザインの1つとして歯周病専門医制度を紹介してゆく。

日本歯周病学会としても,認定医・認定歯科衛生士等のパンフレットを作成しているが,歯科学生や臨床研修歯科医向けに数種類の専門医へのガイドとなる映像や冊子を提供することも必要なのではなかろうか。

最後に,歯周治療を実践・指導しやすいシステム構築を通じて,若い歯科医師が,自然に歯周病学会認定医になることができるような診療スキルに到達できる教育システムが,できることを信じ,これからも臨床研修歯科医を中心に教育・指導に関わりたいと考えております。

表2

専門医取得に繋がる専門医制度紹介と専門医へ誘うカリキュラム

謝辞

臨床研修は多くの指導歯科医と真摯に臨床に向きあう臨床研修歯科医によって成り立っております。松本歯科大学病院の過去から現在に至るすべての臨床研修歯科医と指導歯科医に感謝致します。特に本職に誘っていただきました,松本歯科大学病院元病院長 甘利光司名誉教授に御礼申し上げますとともに,本システム構築に理解ならびにご支援頂きました歴代研修管理委員長の山本昭夫教授,黒岩昭弘教授ならびに保存学講座(歯周病学)吉成伸夫教授に厚く御礼申し上げます。

今回の論文に関連して,開示すべき利益相反状態はありません。

References
 
© 2021 by The Japanese Society of Periodontology
feedback
Top