2011 年 22 巻 4 号 p. 351-357
右側の腸骨静脈圧迫症候群(iliac compression syndrome; ICS)というきわめてまれな症例を経験したので報告する.症例は39歳男性.運動時の右下肢の腫脹を主訴に来院した.精査の結果,深部静脈血栓は認めなかったが,右総腸骨静脈が右内外腸骨動脈に圧迫され,解剖学的な右ICSを呈しているものと考えられた.静脈内ステント留置や静脈バイパス術など積極的な血行再建も検討したが,長期成績や保険適応などを考慮し,施行しなかった.抗凝固療法と弾性靴下の着用を開始し,外来経過観察とした.本症例は,右総腸骨静脈の右内外腸骨動脈による圧迫という非常にまれな解剖学的位置関係による右側のICS症例であり,今後同様の症例の潜在に注意が必要であると考える.また,本症例では,上下肢に表在性の血栓性静脈炎を繰り返しており,血栓性素因として,ホモシステインとループスアンチコアグラントが陽性であったことから,病状に関係しているものと思われた.