2018 年 29 巻 3 号 p. 341-344
骨盤内静脈瘤はまれであるが,とくに女性の卵巣静脈瘤は時に下腹部鈍痛の原因となることがあり,骨盤内鬱滞症候群とも呼ばれ報告が散見される.これに相当する男性の精索静脈瘤に関する治療報告も多数あるが,骨盤内静脈瘤が男性に発見されることはきわめてまれである.今回,大腸癌の術前検査で偶然発見された男性の骨盤内静脈瘤の1例を治療したので報告する.症例は70歳男性.下血の精査でS状結腸癌と診断された.術前CT検査で直腸近傍の仙骨前面に沿って蛇行した静脈瘤を認めた.静脈瘤は両側内腸骨静脈および下腸間膜静脈と交通して拡張していた.腹腔鏡下S状結腸切除術,器械吻合が行われた.下腸間膜静脈は門脈合流部近傍で切離し,腸管切除に際しては拡張した静脈の処理に特段の問題は生じなかった.術後6カ月後に施行したCT検査では一部遺残した仙骨周囲の静脈瘤は虚脱していた.明らかな門脈圧亢進症を疑う所見はなく,先天性のものが疑われた.