2009 年 72 巻 2 号 p. 88-94
Calzaferriらによって提案されたAgCl薄層による水の光触媒的分解のシステムは,ハロゲン化銀(AgX)微結晶を感光素子とする写真システムの研究に携わって来た人達にとっては驚きであろう.本解説では,AgX微結晶の固体物性および写真感光性の観点から提案されたシステムのAgX層の物性と挙動に関して分析を行った.分析の対象は,励起子の形成および解離による光電子と正孔の生成,層の内部から表面への光電子の輸送,光電子と電解質溶液中の銀イオンの反応による銀のクラスターの形成,層の内部から表面への正孔の移動,正孔によるAgXの光分解とハロゲン分子の生成,正孔による水の酸化と酸素ガスの生成,および光電子と正孔の再結合である.分析の結果は,AgClが提案されたシステムに適した物質であり,AgXの中では最適であることを示した.