2010 年 72 巻 3 号 p. 209-213
炭素イオンを用いた重粒子線がん治療における被曝線量を正確に見積もるため,重粒子線による核破砕反応を解析した.このために銀塩写真感光材料とプラスチック飛跡検出器CR39の複合飛跡検出システムを構築し,原子番号(Z)が1から6の高エネルギーイオンの同定を試みた.銀塩感光材料はプロトンのような最小荷電粒子も検出しうるが,大きいZでは電荷分離能力が低下する.一方CR-39検出器はより大きなZのイオンを弁別できるが,小さいZのイオンを検出することができないという欠点がある.両者を組合せることですべてのイオンの弁別が可能になる.銀塩感光材料上の現像銀粒子からなる飛跡像はUTS(Ultra Track Selector)で解析され,飛跡の疑似体積VPHs(Volume Pulse Heights)を得た.CR-39検出器表面のエッチピットは近年開発された走査型光学顕微鏡(HSP-1000)で解析され,エッチピットのサイズを得た.両者を重ね合わせた複合システムでの,銀塩感光材料とCR-39の両者の飛跡のマッチング解析を含めた測定方法を開発した.CR-39のエッチピットの解析は,C,B,Beイオンの飛跡を検出した.銀塩感光材料上のプロトンとHeイオンによる飛跡は,他の重いイオンの飛跡から明瞭に分離された.しかしながらこの方法ではLiイオンは同定することができず,この同定のためのさらなる改良が必要とされた.