類推は,人間の知的な活動を支える重要な認知過程である.比喩,創造性,アブダクション,転移学習など,イメージ間の構造的類似を見出す行為において幅広く役立つ.類推を基盤とした比喩理解のモデルとして不定自然変換理論(theory of indeterminate natural transformation, TINT)がある.TINTでは,あるイメージの意味を他のイメージへの連想関係の総体であると定義する.ある比喩の措定を意味の創造過程と捉え,被喩辞と喩辞に関わるイメージの連想関係を変化させることで,比喩理解過程を表現する.そのため,TINTはイメージ同士が連想関係で繋がれた連想ネットワークを必要とし,実行結果として連想ネットワークを書き換える.これまでにTINTは,最小限な形での計算論的実装と,ある単一の比喩理解過程に関するシミュレーションと実験的検証がなされている(池田 et al. 2021).しかし,連想ネットワークの動的変化についてはほとんど研究されていない.本研究では,比喩理解過程においてTINTが連想関係を書き換えることで連想ネットワークの大局的な性質がどのように変化していくのかを分析する.