2024 年 157 巻 p. 70-97
本稿では,炭素税に仕入税額控除と輸出免税と輸入時課税を組み込んだ,仕向地主義炭素税の概念を説明するとともに,経済理論モデルによって,従来の仕入税額控除と輸出免税と輸入時課税がない炭素税よりも,仕向地主義炭素税の方が,経済厚生の面でも望ましいことを裏付ける分析結果を示した。特に,仕入税額控除と輸出免税と輸入時課税がない炭素税では,付加価値税との間で課税の累積を引き起こしたり,他国に輸出する際に国際競争上不利になったりする現象が生じる。本稿では,その論理を記述的に説明するだけではなく,経済理論モデルを基にしても確認した。
本稿で分析した開放経済における複占企業モデルでは,複占企業間の戦略的行動によって各国の税率に反応して財の需給や価格が変化しうるため,仕向地主義炭素税が経済厚生の面で常に望ましいというわけではない。本稿で確認したところ,経済厚生の面で仕向地主義炭素税の有利性が低減するのは,各国の経済構造がかなり異なり,炭素税を課していない国の経済規模が顕著に小さい場合である。むしろ,今後の日米欧や経済規模の大きい新興国の間で,炭素税(をはじめとするカーボンプライシング)や炭素国境調整措置のあり方を検討することを踏まえれば,経済規模の大きさが比較的近い国同士の間では,仕向地主義炭素税の方が望ましいという本稿の結論が,重要な意味を持つ。