2024 年 157 巻 p. 98-132
経済のグローバル化・デジタル化に伴って生じる租税回避や租税競争等の課題に対し,これまで種々の取り組みがなされてきたところであるが,経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対する解決策の「第一の柱(Pillar Ⅰ)」「第二の柱(Pillar Ⅱ)」の合意がなされ,各国で導入に向けた準備が進められている。
他方,法人課税の抱える課題を抜本的に改革するための提案として,第一の柱・第二の柱に係る合意以前から,仕向地主義キャッシュフロー税(DBCFT),所得による残余利潤の配分(RPAI)等が提案されてきた。DBCFTは,効率性・租税回避の抑制・租税競争の抑制・事務負担の軽減それぞれの観点から利点があるものの,現行の法人課税からの乖離は大きく,WTO協定等との適合の面からも課題は大きい。RPAIは,現行税制の課題全てを解決するものではないが,効率性・租税回避の抑制・租税競争の抑制それぞれの観点から利点はあり,かつ現行の法人課税からの乖離はDBCFTほど大きくない。
今後の国際課税の方向性としては,すぐに抜本的な法人税改革がなされるのではなく,まずはデジタル課税の導入・定着を待った上で実務的な課題や現行の法人課税の抱える課題の解決状況について整理がされることとなる。その上で,抜本的な法人税改革の必要があると考えられる場合には,第一の柱の仕組みを拡張する形でRPAの導入範囲拡大,将来的にはRPAIの導入への拡張が考えられる。その後,更なる改革が求められる場合には国際的な合意のもとでDBCFTの導入の議論がなされることが想定される。