抄録
コモンマーモセットは家族単位の群れで暮らし,共同繁殖や利他行動などヒトに近い社会性を持つことから,ヒトの社会行動モデルとして注目されている。本研究では,コモンマーモセットの社会性を形成する行動の特徴を明らかにするために,同性同種個体との直接対面テストを行い,行動解析を行った。
2~2.5年齢のコモンマーモセットのオス(同性個体とペア飼い,12頭)を,異なるケージで飼育されている同性個体と,試験ケージ内で一方を移動箱に入れたまま対面させる馴化期間(10分×2)の後,2頭同時に試験ケージ内に放ち10分間対面させた。対面テストはケージメイト以外のすべての個体に対して1回のみ行った(計60試行)。各テスト中の行動はビデオカメラにて撮影し,観察された行動を17項目に分類してその持続時間を測定した。全行動項目の持続時間を変数として因子分析を行った(最小二乗法,プロマックス回転)。
その結果3因子が抽出された。各因子と行動項目との関連性から,第1因子は“社交性”,第2因子は“攻撃性”,第3因子は“不安”と解釈された。さらに,各個体全試行における因子得点の中央値をそれぞれの行動(性格)特徴としてスコア化し,生物学的指標(PET実験によるセロトニントランスポーターの結合能,ヴァソプレシン受容体1a,ドーパミンD4受容体,モノアミン酸化酵素Aにおける遺伝子多型)との関連についても解析した。その結果,“社交性”,“不安”スコアとセロトニントランスポーター結合能が関連する脳部位がそれぞれ明らかになった。また,“社交性”スコアとモノアミン酸化酵素A,“攻撃性”および“不安”スコアとヴァソプレシン受容体1aの遺伝子多型に関連が見られた。