霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: E3-2
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口頭発表
アフリカ熱帯林におけるゴリラとチンパンジーの同所性と生息密度
*鈴木 滋
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抄録

 アフリカ熱帯林では,ゴリラとチンパンジーが同所的に広い範囲で生息しており,ほとんどのゴリラと半数近くのチンパンジーは同所的に分布すると推定される.両種の共存域では 1960年代から調査が行われてきたが,ゴリラとチンパンジーの食性が大きく重複することは 1980年代まで知られていなかった.共存域における研究では,両種の同所的共存の潜在的な競合関係に関心が集まり,1990年代以降,多様な植生の調査地が開かれた.その結果,どの共存域でもゴリラとチンパンジーは空間的に共通する地域をつかっており,また,食性は植物性食物で重複し,果実での重複がもっとも大きいことなどが確認されてきた.ただし,種間で果実食性の重複が大きいといっても,ゴリラはチンパンジーよりも繊維性の植物食に依存し,チンパンジーは果実の資源量にかかわらず果実食を維持しており,果実の少ない時期には主要食物が異なっているために種間の共存が安定的に保たれていると考えられている.しかし,種間関係が安定的であっても,種間の影響がないとは限らない.そこで今回は,熱帯林に同所的に生息するゴリラとチンパンジーがネガティブな影響を受けているかどうかを推定生息密度から検討した.ライントランセクト法でえられた 12の共存域の両種と 5つの非共存域のチンパンジーの推定密度を比較すると,同所的なゴリラの生息密度の平均は 1.6頭 /km 2であるのに対してチンパンジーは 0.6頭 /km 2で有意に小さかった.すなわち,ゴリラのほうがチンパンジーよりも共存域では頭数が多い傾向がある.ついで,ゴリラとの共存域におけるチンパンジーの生息密度は,同所的ゴリラよりも低いだけではなく,チンパンジーのみの地域での平均 1.8頭 /km 2よりも低かった.すなわち,両種は空間的に避けあったり,直接的に排除しあっているわけではないが,ゴリラがいるところではチンパンジーの生息密度が低く抑えられていることを示唆している.

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© 2013 日本霊長類学会
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