霊長類研究 Supplement
第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
セッションID: P-163
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ポスター発表
小集団化と遺伝的多様性を消失したオキナワトゲネズミ -希少種トゲネズミ 3種の生息調査と遺伝的多様性分析から
*木戸 文香*城ヶ原 貴通*黒岩 麻里*越本 知大*望月 春佳*中家 雅隆*村田 知慧*三谷 匡*山田 文雄
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抄録

 トゲネズミ属Tokudaiaは沖縄島,徳之島及び奄美大島のみに生息する我が国の固有属で,島ごとに独立種を形成し,国指定天然記念物と環境省 RDB絶滅危惧Ⅰ類に指定されている.しかし,その生息状況把握を含め,具体的保全策は図られていないのが現状である.そこで,本属 3種の生息状況と遺伝的多様性について検討した.本属 3種の生息状況は島により異なるが,とくにオキナワトゲネズミT. muenninkiは沖縄島北部(やんばる)の森林の数平方 kmの範囲にしか生息が確認されなかった.また,トクノシマトゲネズミT. tokunoshimensisはこれまで知られていた生息地点においても生息がほとんど確認されず,特に島南部での生息情報は少なかった.一方,アマミトゲネズミT. osimensisはここ数年生息数が回復し安定した生息状況になってきており,マングース防除事業による捕食圧低下の効果と考えられる.更にこれらを対象に実施した mtDNA多型解析の結果,オキナワトゲネズミでは 1個のハプロタイプしか認められなかった一方で,アマミトゲネズミでは 12個のハプロタイプが検出された.しかし,アマミトゲネズミにおけるハプロタイプのネットワーク樹分析によると,中間型のハプロタイプが多数消失していることや,特定のハプロタイプの検出頻度が多いことから,過去に個体数減少を経験したが現在は回復傾向にあることが示唆された.さらに,核 DNA分析において,オキナワトゲネズミでは多様性が低く,アマミトゲネズミでは比較的高いことが示された.これらの結果から,オキナワトゲネズミは集団サイズが小さく,遺伝的多様性を消失しており,環境変動に十分適応できない可能性が高いため,早急の保護対策が必要と考えられる.また,トクノシマトゲネズミにおいても,生息数減少や遺伝的多様性低下を起こしている可能性が高く,同様の対策が求められる.

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© 2013 日本霊長類学会
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