霊長類研究 Supplement
第31回日本霊長類学会大会
セッションID: C7
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口頭発表
タンザニア・マハレM集団の野生チンパンジーの出産と子殺し/カニバリズムの新事例
西江 仁徳
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抄録

2014年12月にタンザニア・マハレM集団において観察された,野生チンパンジーの出産とその直後に起こった子殺しおよびカニバリズムの新事例について報告する。マハレではこれまで約50年の研究のなかで,14例の集団内子殺し(状況証拠を含む)が報告されてきたが,1993年を最後に子殺しは観察されていなかった。発表者は,2014年12月2日に,DV(ワカモノメス,2012年移入,推定14歳)が出産した直後の新生児をDW(オトナオス,推定26歳)が奪い,その後カニバリズムをおこなうのを観察した。DVの出産は昼間に地面の上でうずくまった姿勢でおこなわれ,周りには多くの個体が一緒にいた。新生児は母親DVが触る間もなく,即座にDWが奪って藪に逃げ込み,他のオトナオスもDWを追いかけていって大騒ぎになった。約35分後にふたたびDWを発見したときには,DWは手にぐったりした様子の新生児を保持しており,またすぐに他のオトナオスとともに藪の中を大騒ぎしながら移動していった。さらにその約50分後,樹上にいるDWを再度発見したときには,すでにDWは新生児を食べ始めており,新生児の下半身部分が失われていた。カニバリズムをしているDWの周囲には複数の個体がおり,一部の個体は新生児の肉や骨の断片を獲得して食べた。またこの一連の騒ぎと並行して,DVの後産(胎盤)とみられる物体を複数のチンパンジーが運ぶ様子が観察されたが,胎盤食は見られなかった。本事例は,(1)野生チンパンジーの出産の様子が観察されたこと,(2)出産直後の新生児が子殺しの犠牲になったこと,という二つの点で非常に稀な観察事例といえる。本事例の詳細について報告し,子殺しについてこれまで提唱されてきた諸仮説との整合性ついて議論する。

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© 2015 日本霊長類学会
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