霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: A02
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口頭発表
ニホンザルにおける音声使用の発達に母以外の個体との関わりが及ぼす影響
勝 野吏子山田 一憲中道 正之
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抄録

ヒト以外の霊長類の音声行動にはどれほど可塑性があるのか。警戒音に関しては音声を用いる対象が発達に伴い修正されることが知られているが、他の種類の音声では研究が少ない。また、どのような経験がその習得に影響するのかはほとんど明らかになっていない。ニホンザル(Macaca fuscata)は、穏やかで音量の小さい音声(girney, grunt)を他個体と関わる際に用いることがある。先行研究では、成体メスはこの音声を普段は関わりの少ない非血縁メスへ近づく際に用いることが多く、これは敵意がないことを相手に伝える機能があるとされている。本研究は、ニホンザルが社会交渉にかかわる音声の用い方を発達に伴い習得するのか、その習得に他個体と関わった経験が影響するのかを明らかにすることを目的とした。嵐山ニホンザル集団において、未成体(1-3歳齢)、準成体(4-5歳齢)、低年齢成体(6-7歳齢)、成体メスを対象とし、最長3年にわたり個体追跡観察を行った。対象個体が成体メスに対して行った接近と、接近の際に対象個体が音声を用いたかどうかを記録した。成体や低年齢成体メスでは、血縁メスよりも非血縁メスに対して音声を用いやすかった。一方、準成体や未成体メスではこの傾向はみられなかった。どの年齢段階の個体においても、接近の際に音声を用いたほうが、非血縁メスとの間で親和的交渉が生じやすかった。低年齢成体と準成体メスにおいて、非血縁メスと関わった頻度の高い個体ほど、その翌年に非血縁メスに対して音声を用いた割合が高かった。血縁メスと関わった頻度は、音声を用いた割合に有意な影響を持たなかった。これらの結果から、音声を用いると非血縁メスとの間で交渉が円滑に行われるため、音声を用いることが促進されると考えられる。音声行動の習得には、母をはじめとする血縁メスとの関わりを通じて社会的学習を行うというよりも、実際に非血縁メスと関わり、試行錯誤を行うことが重要である可能性が示唆された。

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© 2016 日本霊長類学会
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