霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: A13
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口頭発表
幸島ニホンザルにおける採餌行動と野外実験
栗田 博之高橋 明子鈴村 崇文
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抄録

宮崎県串間市にある幸島のニホンザル(Macaca fuscata)は、管理者から播かれた小麦粒を地面から採る際に、①舌で舐め取る行動と、②指でつまんで口に運ぶ行動の2種類を織り交ぜる。われわれは、「幸島個体は、その時の餌分布条件に応じて採餌効率が高くなるよう、行動を選択している」との仮説を立て、数種類の餌分布条件を実験的に設定し、各条件下で2種類の採餌行動の生起頻度を測定することで、その仮説の検証を試みた。下記の各種餌分布条件下で、30cm×59cmの実験区画に小麦を播いて対象個体に提示し、2種類の行動の生起パタンを記録した。2種類の行動選択に影響を及ぼす要因と仮定したのは、空腹度、小麦粒が播かれた地面の形状、及び小麦粒の密度である。その際、実験的に設定した餌分布条件とは、空腹度については、管理者が小麦を播く「管理者給餌」の前(空腹時)と後(満腹時)の2条件、地面形状については、平坦と凸凹の2条件、小麦密度については、地面の小麦密度を変えた4条件である。その結果、空腹度における2条件間での違いは明確ではなかったが、土地が凸凹の場合や小麦分布密度が低いほど、行動②の生起頻度が高いことが明らかになった。これらの結果は、(小麦の存在を確認し易い)平坦な地面に、高密度で分布する小麦を採るには、顔を地面に近づけて舌で舐め取る(行動①)方が効率的であることを示唆している。

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© 2016 日本霊長類学会
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