霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: A24
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口頭発表
サバンナ混交林への適応-西部コンゴ民主共和国における野生ボノボ研究の展開
伊谷 原一岡安 直比山本 真也新宅 勇太
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抄録

ボノボ(Pan paniscus)は、コンゴ民主共和国(DRC)に固有の大型類人猿であるが、その調査研究は、主な生息域である同国中央部の熱帯雨林で行われてきた。他方、2006年にWWFが行った、同国西部のトゥンバ湖ランドスケープの広域調査において、推定5000~7500個体(総個体数の25~30%)という、まとまったボノボの個体群の存在が確認された。この西個体群分布域の南西端に位置するマレボ地域では、WWFの支援を受けた地元の環境保全NPO・Mbou-Mon-Tourがすでにボノボの人付けを試みているが、主目的はエコツーリズム振興であり、本格的な学術調査は行われていない。そこで発表者らは、2013年に同地域においてボノボの社会生態学的研究と保全に向けた調査に着手した。マレボ地域には複数集団の存在が確認されており、そのうちのNkala集団の14個体とMpelu集団の16個体はすでに個体識別されている。この地域では伝統的にボノボの狩猟がタブーとされてきたことから、ボノボはあまり人を恐れず、人付けは比較的スムーズに進んだ。その一方で、2013年と2014年には、人獣共通感染症による複数個体の死亡が確認されている。また同地域は保護区ではないことから、罠によって手足の指を欠損しているボノボが多く、ボノボ以外の野生動物相も乏しい。マレボ地域の植生は川辺に広がる熱帯林と湿性草原が混交した、ボノボの生息地としては特異な環境であるが、彼らは熱帯林だけでなく湿性草原も頻繁に利用していることが確認された。この環境適応に関する新たな知見が蓄積されれば、ヒト科の環境適応や進化の違いについて、より議論が深められると期待できる。さらに、保全の観点からみると、より広範な西個体群の生息密度や分布域などを把握することも重要である。ボノボはコンゴ盆地の熱帯雨林生態系の頂点に立つ、生物多様性の指標である。また種子散布などを通じて熱帯雨林の更新に中心的な役割を果たしていることから、その保護は熱帯雨林の保全に直結する。保護に向けたモニタリングや施策の導入プロセスとして、広域調査体制の確立も検討したい。

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© 2016 日本霊長類学会
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