霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: B06
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口頭発表
顔色変化検出における3色型色覚の有効性
平松 千尋Amanda D. MELINWilliam L. ALLENConstance DUBUCJames P. HIGHAM
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抄録

霊長類の3色型色覚は顔色変化などの社会的シグナルの検出に最適化されているという仮説が提唱されている。そこで、排卵周期と同期して繁殖可能時期に赤く暗くなる雌のアカゲザルの顔色に着目し、この仮説を検討した。ヒトを対象とし、同一個体の排卵期と非排卵期の顔写真を呈示し、どちらが排卵期の顔かを選択させる実験を行った。一般3色型色覚の見え方に加え、色覚をシミュレートするプログラムを用い、S、M、L錐体のいずれかを欠損した2色型色覚、M錐体とL錐体の波長感受性領域が一般3色型よりも近い3色型、S、M、L錐体の感受性領域が均等に離れた3色型色覚を模擬した。その結果、一般3色型とM、L錐体の感受性領域が近い3色型では、2色型よりも速く正確に排卵期の顔を選択することができた。しかし、S、M、L錐体の感受性領域が均等に離れた3色型の成績は2色型と同様であった。また、2色型よりも有利な3色型条件では、顔の赤みを明示的な選択の手がかりとしていたが、反応速度は顔の暗さとより相関していた。結果を総合すると、霊長類の3色型色覚は、2色型色覚よりも顔色変化検出に適していることが示唆された。よって、社会的シグナルの知覚および検出は、霊長類の錐体波長感受特性を保持する要因であるかもしれない。しかし、M、L錐体の感受性領域が近い3色型条件においても一般3色型と同等な反応を示したことから、必ずしも繁殖に関連した顔色変化の検出に最適化されているわけではないと考えられる。

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© 2016 日本霊長類学会
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