霊長類研究 Supplement
第32回日本霊長類学会大会
セッションID: B08
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口頭発表
テナガザルの歌は「歌」といえるか?
香田 啓貴森田 尭小林 智男宮川 繁
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抄録

テナガザル類の音声は、複数の単一音素が繰り返し連続され長時間にわたり続く系列構造を示すことから、鳴禽類や鯨類などの発声と同じように、「歌」と呼ばれている。また、これまでの研究から、テナガザルの歌の機能には縄張りの防衛や夫婦間の絆を強めるといった機能が知られており、この点においても鳴禽類の歌と類似していると考えられてきた。しかし、鳴禽類の歌の複雑性は、単一音素が組み合わされた構造であるフレーズといった上位の構造が、組み換えを起こすような系列規則にあるとも考えられており、鳴禽類や鯨類で指摘されるような歌と相同な現象であるかについては疑問が残る。そこで、我々はズーラシアに飼育されているボウシテナガザルを対象に、その音声を長時間にわたり録音し系列音素の遷移確率を計算し、ヒトの言語と鳴禽類の歌の比較研究で指標とされてきた形式言語理論的区分(cf. Chomsky Hierarchy)に基づき、予備的にその複雑性について検討した。その結果、一見複雑そうに見えるボウシテナガザルの音系列は、直前の音素にのみ依存して次の音素の出現確率が決定されるBigramで大部分が記述でき、ほとんどが2音の簡潔な遷移の繰り返しで表現され、鳴禽類の歌で見られるフレーズの組み換え構造や、ヒト言語で顕著な入れ子構造は見当たらなかった。以上の結果から、テナガザルの歌について、その特徴を整理するとともに鳴禽類の歌の再評価も併せて行い、動物の歌の系統的な理解について今後どのような研究が望まれるかについて検討したい。

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© 2016 日本霊長類学会
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