霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: A07
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口頭発表
ヒトおよび現生大型類人猿の四肢の相対成長
*小林 諭史森本 直記西村 剛山田 重人中務 真人
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抄録

ヒトおよび現生大型類人猿の共通祖先の形質状態については,直接的証拠となる化石記録が不足していることもあり,議論は収束していない。個体発生のパターンは,遺伝的に決定される発生プログラムの修正を反映するので,形質の進化的起源を探るのに有用な情報である。四肢のプロポーションは運動様式と深く関わることが知られているが,ヒトおよび現生大型類人猿の四肢の相対成長を大規模に直接比較した研究はない。われわれは,X線CT装置を用いて,出生前後からオトナ期までのヒト,チンパンジー,ゴリラ,オランウータンの液浸・骨格標本を撮像し,得られた画像から骨幹の長さを上腕骨,橈骨,大腿骨,脛骨について測定した。データの分析には,直交回帰,ランダマイゼーション検定,及びQuick test(Tsutakawa and Hewett, 1977)を用いた。その結果,前肢長(上腕骨と橈骨骨幹長の和)と後肢長(大腿骨と脛骨骨幹長の和)はチンパンジーとオランウータンでは等成長を示したが,ヒトとゴリラでは後肢長の方が優位に成長しており,その程度はヒトの方が顕著であった。ヒトは大型類人猿に比べて前肢に対し後肢の成長が有意に大きいが,大型類人猿間では有意差はなかった。また,前肢長に対し後肢はヒト,チンパンジー,ゴリラ,オランウータンの順に長かった。現生大型類人猿では,基本的に出生前に前肢と後肢のプロポーションがほぼ決定するが,ヒトでは,出生後にも大きなプロポーション変化を示した。これは,効率的な二足歩行を可能にする極度に長い後肢を獲得するためと考えられた。また,ゴリラではわずかに後肢優位の成長を示すことから,これらのヒト上科において前肢と後肢のプロポーションを厳密に一定に保つような発生学的,あるいは機能的な制約は存在しないと考えられた。

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© 2017 日本霊長類学会
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