「ヒトにはヒトの乳酸菌」というように,動物種を特徴づける腸内細菌が存在している。我々は,野生ニシゴリラ,野生マウンテンゴリラばかりでなく,飼育下のニシゴリラからも共通して分離される「ゴリラの乳酸菌」Lactobacillus gorillaeの研究を進めている。これまでの研究によって,ニシローランドゴリラ由来本菌株の表現形質は,飼育個体由来株にくらべ野生個体由株では植物の難消化性成分の分解能が高く,一方,飼育個体由来株は,野生個体由来株にくらべ高いNaCl抵抗性を示すことを明らかにした。これらの表現形質の違いは,飼育ゴリラの食事が飼料作物中心かつペレット給与などでミネラルバランスを十分維持している点,野生ゴリラは自然の植物を摂取しており,まれに昆虫食はするものの食事中のNa不足に常にさらされている点等の食事内容の変化に起因しており,同一種においても株レベルで飼育下への適応が始まっていると考えられた。本発表では,これまでの結果に加え,ニシゴリラとは食性の異なるマウンテンゴリラ由来株の生理性状の特徴を示し,ニシゴリラとマウンテンゴリラ由来株の表現形質の比較を行う。さらにこれらの菌株の全ゲノム解析の結果を示し,L. gorillaeの種内変異を明らかにするとともに,それぞれが宿主と共生関係を確立するための条件や,飼育下の食事内容に本菌が適応する条件等について考察する。