霊長類研究 Supplement
第33回日本霊長類学会大会
セッションID: P31
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ポスター発表
ニシローランドゴリラの群れにおけるシルバーバック消失後の社会的変動
*坪川 桂子藤田 志歩AKOMO-OKOUE Etienne F.BITOME-ESSONO Yannick P.MAKOULOUTOU PatriceEBANG-ELLA Ghislain W.竹ノ下 祐二
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抄録

ニシローランドゴリラ(Gorilla gorilla gorilla)は人付けの成功例が少なく,人付け群の長期追跡により社会的変動を観察した報告はほとんど無い。ガボン共和国ムカラバ-ドゥドゥ国立公園では,2003年から単雄複雌群(G群)の継続調査がなされてきた。2016年10月頃,シルバーバック(PG)がG群から消失したことが確認された。本発表ではその後に観察された社会的変動について報告する。PGは老衰により死亡したと推測されるが,消失原因の特定には至っていない。PG消失2ヶ月後の2017年1月上旬時点で,乳児1頭が消失していたが,その他のG群構成員は全頭(メス5頭,子ども13頭)を群れで確認した。1月中旬からは,新しいシルバーバック1頭が,これら18頭と遊動をともにする姿がたびたび観察された。このシルバーバックは2月上旬を最後に目撃されなくなり,その後の行方も分かっていない。同じ頃,乳児連れのオトナメス2組とその子どもたち3頭が,隣接群へと移籍した。そのなかにはワカモノオス1頭も含まれていた。移籍した乳児は,2月中旬以降は姿が確認されていない。シルバーバックの消失後,こうした群れ構成の変動に加えて,オトナメスやワカモノオスの社会行動,他群・単独オスとの遭遇頻度や交渉にも変化がみられた。本研究は,ニシローランドゴリラの単雄複雌群において,シルバーバック消失後も群れの追跡を継続し,社会的変動を直接観察した貴重な報告である。核オスの消失後にメスと子どもでの遊動を続け,のちに新しいシルバーバックが(本事例では一時的にだが)加わるという事例や,複数のメスによる子連れ同時移籍は,ヒガシローランドゴリラ(G. beringei graueri)でも報告されている。一方,ワカモノオスが単雄複雌群に移入したという観察事例の報告は数少なく,ゴリラの社会変異を解明するうえで,本研究は重要な示唆を与える。

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© 2017 日本霊長類学会
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