2006 年 13 巻 p. 171-188
琵琶湖疏水は我が国の近代国家建設に向けて最大規模の建設投資を必要としたプロジェクトである。だが、工事記録は残されているものの、政策者達のマネジメント過程を示した資料は殆ど存在していない。本論文は、琵琶湖疏水完成による経済波及効果を解析し、当時の政策者達がプロジェクトにどのような効果を期待し、どのように計画され、実施されたかを現存する資料と経済分析手法を用いて検証するものである。経済波及効果の解析に必要な最古の京都府産業連関表は昭和35年度に作成されたものである。このため、RASプロセスを用いて琵琶湖疏水が完成した頃の産業連関表を推定し、疏水完成による当時の京都府の産業構造の変化を定量的に解析する。さらに産業構造の変化から生ずる便益が、当時施された財務管理と工事工程管理に如何に関連していたかを解析すると共に、当時の政策者達が行ったプロジェクトマネジメントと現代の公共事業マネジメントとを比較し、今後の我が国における公共事業のマネジメントの方向性を見出すことに役立てる。