建設マネジメント研究論文集
Online ISSN : 1884-8311
ISSN-L : 1884-8311
公共事業実施における合意形成プロセスに関する一考察
岩井 寿人野城 智也吉田 恒昭國島 正彦
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1998 年 6 巻 p. 121-130

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抄録

近年、全国各地で公共事業実施をめぐる地元住民と計画主体との対立・紛争という社会問題が顕在化している。本研究ではその具体的事例の一つとして東京大学駒場キャンパス再開発事業についてケーススタディしたものである。本研究では、公共事業実施計画作成過程の観点から、駒場寮廃寮プロジェクトの経緯を体系的に整理した。
まず、駒場キャンパス再開発事業の問題点として、(1) 事業アセスメントの不備、(2) 事業計画決定過程における当事者の不在、(3) 事業執行の手法・手続きの硬直性、及び実態との乖離、(4) 行政職員の行動規範の不明確性の4点を挙げ、これに基づいて本研究では、次のような分析を行った。
(1) に関連して、CVM (仮想評価法) の有用性について追究し、考察を加えた。CVMとは、アンケートを用いて一般市民にたずね、比較評価が難しいとされる環境等の価値を金額で示すことにより、具体的なプロジェクト評価を可能にする一方法であり、住民、計画主体に多様な価値観が存在することにより解決が困難となりがちな社会紛争を解決するための一つの有用な方策と考えられる。
また (2)(3) に関連して、市民参加、情報公開が求められる背景を考察して、分析を行なった。また (4) に関連して、地域問題・都市問題に対する行政職員の参加の在り方についても考察を行なった。
以上の段階を踏まえ、市民参加型の公共事業プロセスは、国民と行政との関係をより近いものとし、両者の有機的な信頼関係が築かれていく潜在的可能性をもつこと、また少数者の見解も反映しうる「公共性」の実現を可能にするという知見を得た。

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