自然保護助成基金助成成果報告書
Online ISSN : 2189-7727
Print ISSN : 2432-0943
第29期プロ・ナトゥーラ・ファンド助成 国内研究助成
小笠原諸島父島におけるムラサキオカヤドカリ保全に向けた基礎的研究 ―オカヤドカリ保全グループ―
菊地 友則篠田 莉奈坂巻 彩花小澤 ななみ小嶋 珠緒浪川 有紗
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2020 年 29 巻 p. 262-270

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抄録

ヤドカリ類は生命維持に不可欠な貝殻を巻貝群集からの偶発的な供給に依存している.そのため,ヤドカリ類の保全には,巻貝群集動態の知見が重要となる.オカヤドカリ類が多数生息する小笠原諸島父島には,繰り返し外来種が侵入し,オカヤドカリ類が利用する貝殻の供給源である陸産貝類群集が長い間撹乱され続けてきた.そこで,貝殻供給源である陸産貝類群集の撹乱がムラサキオカヤドカリ個体群に及ぼす影響を調査するために,父島と外来種による撹乱が少ない沖縄本島北部個体群の比較をおこなった.沖縄個体群に比べて,父島のムラサキオカヤドカリ個体群では陸産のアフリカマイマイの貝殻利用が多く,体サイズが大型化していた.また,父島では利用可能な貝殻資源が生息地内にほとんど発見できなかった.このことから,父島のムラサキオカヤドカリ個体群はアフリカマイマイ由来の貝殻を主に利用していること,一方で生息地内において利用可能なアフリカマイマイの貝殻が発見できなかったことから,貝殻供給は現在ほとんどないことが推測された.他の研究が指摘しているように,アフリカマイマイに限らず他の陸産貝類の個体数も減少していることから,利用可能な貝殻資源の安定供給が困難な状況になってきており,将来的にムラサキオカヤドカリ個体群の維持が困難になる可能性がある.

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© 2020 本論文著者
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