2020 年 29 巻 p. 281-294
イシヅチザクラは,四国固有のサクラで,愛媛県,高知県において絶滅危惧種に指定されており,温暖化などにより生育域の縮小が懸念されている.厳しい山岳地帯の限られた範囲で生育する本種の保全に向けた基礎的な知見を蓄積するため,分布域,集団サイズ,遺伝的多様性,集団分化について調査研究を行った.
水平分布では,石鎚山系岩黒山が南限で,赤石山系エビラ山が東北限であることが判明した.垂直分布は集団によって異なり,最も低標高であった赤石山集団では,1,400~1,700mであった.各集団のサイズは,50~1,000個体と推定した.植生では,標高や地質に応じた種が出現し,主に岩礫地のシラベ林の林縁やギャップにナナカマド,ミネカエデ類等と低木林を形成していた.SSRマーカー12座による遺伝的多様性は,タカネザクラの南限集団と同等もしくは高かった.全体のG′STは0.100(ヤマザクラ0.050)で,集団間の遺伝構造の違いにより5集団に分化し,うち3集団で過去にボトルネックを経験していることが推定された.赤石集団では,低標高域で生育する個体にヤマザクラとの交雑がみられた.