日本古生物学會報告・紀事
Online ISSN : 2186-0955
Print ISSN : 0031-0204
ISSN-L : 0031-0204
3. 氣候状況指示者としての日本更新世植物群
遠藤 誠道
著者情報
ジャーナル フリー

1935 年 1935 巻 1 号 p. 9-25_2

詳細
抄録

此論文は鹽原化石植物群の研究を根據として論じたものである。
鹽原化石植物群の地質時代は次の事項により第四紀更新世のものであつて第三紀時代の植物群ではない。則ち鹽原化石植物群には絶滅種の割合が非常に少ないこと, 第二遠隔なる地方に現生する要素を缺くこと。第三かへで科植物の掌状分裂葉の數は地質時代が近世に近づけば近づく程多數のものが認められる。而して鹽原化石植物群のかへで科中には第三紀時代に産出しない11葉以上の掌状分裂葉をもつAcer japonicum THUNB.(はらちはかへで) 等があること, 第四層位上及び地形上の對比から第四紀更新世のものと考へるのが最も適當であること, 等から見て是は第三紀時代のものでなく第四紀更新世の植物群である。
次に鹽原化石植物群の指示する氣候は現在より餘程寒冷であつたものと見なければならない。則ち鹽原化石植物群を埋藏した當時の鹽原湖の海面よりの高度は500米乃至600米であつたと推論すべき十分な證據があるのに同化石植物群は現在本州中部に於て1500米附近の高度のところか, 又は北海単中南部に繁茂する植物群に彷彿たるものである。また植物の葉縁は氣候に關係して變化するものであるが, 鹽原化石植物群の葉縁の状態は現在の北海道の植物群に類似して居ること等から考察して, 當時の此地に於ける年平均温度は現在より攝氏五度乃至五・五度低かりしものと見なければならない。

著者関連情報
© 日本古生物学会
前の記事 次の記事
feedback
Top