日本古生物学會報告・紀事 新編
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840. 介形虫 Cythere (O. F. Muller, 1785) 属とその種の記載
塚越 哲池谷 仙之
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1987 年 1987 巻 148 号 p. 197-222

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抄録

Cythere属は, 1785年, O.F. Mullerによって海生の介形虫類に与えられた最古の属として名高い。本研究は, 全世界のCythere属の化石および現世標本の徹底した収集を行うと共に, これまでの研究を総括して, 本属に17種が含まれることを明らかにした。分類の基準として, 遺伝的に保存性の高い形質のひとつである殻表面に開口するsieve-type normal pore canalsの分布形式を重要視して種の分類を行った。また, 現生種については, soft part(生物体), 特に雄の生殖器官の形態の比較により, これらの種分類の信頼性を確認した。本属は, 北回帰線以北に分布圏をもち, 北大西洋沿岸地域に2種, 北太平洋東部地域に4種, 日本列島を含む北太平洋西部沿岸地域に絶滅種3種を含む12種(一部北太平洋東部沿岸地域との共通種を含む)が産出する。種の多様度は, 日本列島地域で最も高く, また化石記録は日本では, 初期中新世まで遡れるのに対して, ヨーロッパおよび北米東部では, 中期更新世以降, 北米西部では, 中期鮮新世以降に産出する。これらの知見を背景として, 本属の各種間の近縁性を考察し, 5つの種グループを認めた。既知種10種の再記載を行うと共に, 7新種(C. cronini, C. hanaii, C. kamikoaniensis, C. nopporoensis, C. sanrikuensis, C. valentinei, C. sp.)を提唱し, Cythere属の種分化および進化系統を追跡する上での基礎としたい。

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